当体とうたい)” の例文
私が私自身に帰ろうとして、外界を機縁にして私の当体とうたいを築き上げようとした試みは、むなしい失敗に終らねばならなかった。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
蛭子は後に恵比寿神えびすがみとなり、今では田穀の神とさえあがめられているが、その前は商賈しょうか交易の保護者、もう一つ前には漁民の祭祀さいし当体とうたいであり
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
単に彼と応接するわずらわしさ、もしくはそれから起り得る嫌疑けんぎを避けようとするのが彼女の当体とうたいであったにしたところで、果物籃くだものかごの礼はそれを持って来た本人に会って云うのが、順であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
勇猛ゆうみょう精進潔斎怠らず、南無帰命頂礼なむきみょうちょうらいと真心をこら肝胆かんたんを砕きて三拝一鑿いっさく九拝一刀、刻みいだせし木像あり難や三十二そう円満の当体とうたい即仏そくぶつ御利益ごりやくうたがいなしとなまぐさ和尚様おしょうさま語られしが、さりとは浅い詮索せんさく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
又かかる現象が智的生活の渦中に発見された場合には道徳的ではない。然しその生活を生活した当体とうたいなる一つの個性に取っては、善悪、合理非合理の閑葛藤かんかっとうさしはさむべき余地はない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)