彌造やざう)” の例文
新字:弥造
ガラツ八の八五郎は薄寒さうに彌造やざうを構へたまゝ、膝小僧で錢形平次の家の木戸を押し開けて、狭い庭先へノソリと立つたのでした。
彌造やざうも拔かずに、敷居際に突つ立つて『お早う』などと顎をしやくる八五郎が、今日は何を考へたか、入口から斯う、世間並の挨拶をして入つて來たのです。
秋が深いにしても、朝の光の中に鬱陶うつたうしく頬冠り、唐棧たうざんを端折つて、左のこぶし彌造やざうをきめた恰好は、どう贔屓目ひいきめに見ても、あまり結構な風俗ではありません。
右手に十手を引つかついで、左手に高々と彌造やざうこさへて、八五郎は鼻唄を唄ひながら歸つて行くのです。
錢形の平次は、相手の眞意をはかり兼ねて、そつと顏を上げました。二十四、五の苦み走つた好い男、藍微塵あゐみぢんの狹いあはせが膝小僧を押し隱して、彌造やざうに馴れた手をソツと前に揃へます。
兩袖を合せてポンと叩くと、そのまゝ彌造やざうを拵へて、小日向へ早足になります。
その天稟てんぴんの勘を働かせて、江戸中のニユースを嗅ぎ出して持つて來るのですが、生憎なことに今日は恐ろしい不漁しけで、猫の子がお産をしたほどの事件もなく、でつかい彌造やざうを二つ陰氣に拵へて
平次に冷かされつけて居る狹いあはせ彌造やざうを念入りに二つ拵へて、左右の袖口が、胸のあたりで入山形になるといつた恰好は、『色男には誰がなる』と、言ひたいやうですが、四方あたりが妙に淋しくて
もう彌造やざうなんかこしらへて鼻唄をそゝり乍ら歸つて行く八五郎です。
八五郎は彌造やざうの肩で、平次の家の格子戸を小突くのです。