幌車ほろぐるま)” の例文
ぼんやりと歩いていらっしゃると、日蔭町というところの寄席よせの前で一台の幌車ほろぐるまにお出合なされました。
大塚楠緒子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
昼間葉子は庸三の勧めで幌車ほろぐるまに乗って町の医院を訪れ、薬をもらって来たのであったが、医者は文学にも知識をもっているヒュモラスな博士はかせで、葉子のからだをざっと診察すると
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
運搬人はすべてしばのほうから頼んで来た。そして荷物があらかた片づいた所で、ある夜おそく、しかもびしょびしょと吹き降りのする寒い雨風のおりを選んで葉子は幌車ほろぐるまに乗った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
けむる霧雨の田んぼ道をゆられて行く幌車ほろぐるまの後ろ影を追うような気がして、なつかしいわが家の門の柳が胸にゆらぐ。騒々しい、殺風景な酒宴になんの心残りがあって帰りそこなったのか。
竜舌蘭 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
土の反射と、直射でりつくような熱気には、らば幌車ほろぐるまにいてもマヌエラは眠ってしまう。やがてゆくと、白蟻が草をみきったあとがある。兵隊蟻の、襲撃を避けるため不毛の地にしてしまう。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)