帆影はんえい)” の例文
秋ながらうっとりと雲立ち迷い、海はまっ黒にひそみたり。大気は恐ろしく静まりて、一陣の風なく、一だに動かず、見渡す限り海に帆影はんえい絶えつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
一つは夕立晴れたる夏の午後とおぼしく、辻番所立てる坂の上より下町したまちの人家と芝浦しばうら帆影はんえいまでを見晴す大空には忽然こつぜん大きなる虹ななめに勇ましく現はれいでたる処なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのあいだに一点の帆影はんえいも見えない、一すん陸影りくえいも見えない。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
夏の大空に輝く強い日光、奇怪なる雲の峯、洋々たる波浪、悲壮なる帆影はんえいすべて自由にして広大なる此等の海洋的風景は、如何に自分の心を快活にしてくれたであらう。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)