左手さしゅ)” の例文
左手さしゅといえど弦之丞の夕雲流せきうんりゅうには少しの不自由さも見えなかった。またたくまに数人の手負ておいが、大地に仆れ、禅定寺の石垣の根へ這った。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いいえさ、冥土の道がいいよ!」左手さしゅで抱き締め動かさず、右手をふるうと力をこめ、「どんなものだえ!」と突っ込んだ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし保はそのことを信じたくなかった。一時くうていた母が今は人のおもてに注目する。人が去れば目送する。枕辺ちんぺんに置いてあるハンカチイフを左手さしゅって畳む。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
敵は幾人るか判らぬが、にかく石を投げ尽したらしい。今度は木のような物や、骨のような物を投げ初めた。骨はとがっているので、巡査は又もや左手さしゅきずつけた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
左手さしゅが、一番上の風呂敷にかかった。ばらり、むすびめがほどける。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)