ぐう)” の例文
北方にぐうを負うて信長を畏怖いふさせていた上杉謙信の血が、多少ともこの男の脈管に流れているのではないか、とさえ思わせられる。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
川島の名は粛親王しゅくしんのうの姻親として復辟ふくへき派の日本人の巨頭としてぐうを負うの虎の如くに今でも恐れられておる。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
たちまち朱筆の一棒をくらうだけで、気の吐きどころのない、ぐうを負う虎、壁裏の蝙蝠こうもり穴籠あなごもりの熊か、中には瓜子うりこという可憐なのも、気ばかり手負の荒猪あらじしだろう。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
駸々乎しんしんことして西南に向かって長蛇の急坂を下るがごとく運動したるにかかわらず、今はゲルマン帝国がその進路をさえぎり、あたかも猛虎のぐうを負うがごときの形勢なるがゆえに
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
秩父郡小川村ちちぶのこおりおがわむらの外れに、あたかもぐうを負う虎の如くに蟠居し、四方の剣客に畏敬されている、甲源一刀流の宗家逸見へんみ多四郎義利の、道場構えの広大な屋敷へ、威儀を作って訪れた。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この時において、越前の柴田軍がぐうを負う虎の如く、柳ヶ瀬越えの境から大挙南進して来たということは、位置勢州にある羽柴を主力として、決して軽々に方途の定められる問題ではない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風波の恐怖おそれといってはほとんどありません——そのかわり、山の麓の隅の隅が、山扁のぐうといった僻地へきちで……以前は、里からではようやく木樵きこりが通いますくらい
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ゆえにあるいは長蛇の急坂を下るがごとく進撃することあるも、あるいは猛虎のぐうを負うがごとく退守することあるも、勢いその頼みとすべきはただ自家領内の一天地にあり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
依然信州の山河に盤踞ばんきょしてぐうを負うの虎の如くに恐れられておる。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
と、時折、ぐうを負うて、虎のごとく、余勇を国境にふるって来た。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)