山海嘯やまつなみ)” の例文
ゴーッと遠い音波おんぱをひびかせて、みね谷々たにだに木魂こだまがひびきかえってきたあとから、ふたたび、山海嘯やまつなみにも喊声かんせいのどよめき。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰云うとなく此声このこえ駅中しゅくちゅうに拡がると、まだ宵ながら眠れるような町の人々は、不意に山海嘯やまつなみが出たよりも驚かされた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして其廣大な密林を通り過ぎると、大正三年燒嶽の大噴火の名殘だといふ荒涼たる山海嘯やまつなみの跡があり、再びまた寂び果てた森なかを歩いてやがて上高地温泉に着いた。
五万の兵はまるで山海嘯やまつなみの如く谷を縫って流れた。すでにして姜維きょういが火をかけた山々の火気が身近く感じられてきた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、山海嘯やまつなみが逆落して来るような人声がして来た。桔梗河原の試合が終ったのであろう、引きも止まぬ群集が、まだ興奮を続けて、罵り騒ぎながら通り過ぎた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お二人っ! 起きていますか。——住蓮と安楽です。すぐ、すぐに! 逃げる支度をしてください、逃げる支度を」まるで、山海嘯やまつなみのような、不意であった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
急に駈けくだろうとすると、諸所のあなや岩の陰や、裏山のほうから、いちどに地殻も割れたかと思うような喊声かんせい、爆声、罵声ばせい、激声——さながら声の山海嘯やまつなみである。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)