寂滅じやくめつ)” の例文
そして私は犧牲も悲哀も寂滅じやくめつも望んではゐない——さういふのは私の好みではない。私はやしなひ育てたいので、枯らしたいのではない。
淋しい大破した本堂の中にみなぎり渡る寂滅じやくめつの気分は、女や子供、乃至ないしは真面目に考へる人達の心を動かさずには置かなかつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
が、その「死」は、かつて彼をおびやかしたそれのやうに、いまはしい何物をも蔵してゐない。云はばこの桶の中の空のやうに、静ながら慕はしい、安らかな寂滅じやくめつの意識であつた。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これを案じ得ない三四郎は、現に遠くから、寂滅じやくめつを文字の上にながめて、夭折の憐れを、三尺のそとに感じたのである。しかも、悲しい筈の所を、こゝろよく眺めて、うつくしく感じたのである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いとまれに。——かくて、骨泣く寂滅じやくめつ死の都、見よ。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いま寂滅じやくめつ落暉ゆふのひ
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そしてまたその寂滅じやくめつの姿には、着したものを拭ひ去つたあとの不動不壊ふどうふゑの相の名残なごりなくあらはれてゐるのを発見した。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)