奪衣婆だつえば)” の例文
ふん、それはな、三途河そうずか奪衣婆だつえばきものがれて、まだ間が無うてれぬからだ。ひくひくせずと堪えくされ。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これも境の神を祀りしところにて地獄のショウツカの奪衣婆だつえばの話などと関係あること『石神問答』につまびらかにせり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「どうなされたと言って、たった今も言うとおり、通り合せたさい河原かわら奪衣婆だつえばに、渡してつかわしたほどに、今ごろは小石を積んで、あそんでいるにちがいない」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
彼が隣の墓地ぼちにはもと一寸した閻魔堂えんまどうがあったが、彼が引越して来る少し前に乞食の焚火たきびから焼けて了うて、木の閻魔様ははいになり、石の奪衣婆だつえばばかり焼け出されて
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
瀬戸内海を縫うてまた浪速なにわへと志し、安治川あじかわを上って京の伏見より江州を経て勢州に至り、尾張、三河、遠江とおとうみ、そこの狩宿に十王堂を建て、十王尊と奪衣婆だつえばを納め、駿河するがの随所に作物を止めて
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
黄金を積んだとて、可愛い子はかえらぬぞ! この長崎屋、ちゃんと、奪衣婆だつえばの手に渡してしまったのじゃ! ふ、ふ、ふ、あの子が生れたときには、有頂天によろこんで、これで
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
お寺ではこのこわい顔をした婆のことを、奪衣婆だつえばといっております。地獄の途中の三途河という川の岸に関をすえて、この世から行く悪い亡者もうじゃの、衣類をぎ取るというので有名になっております。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)