夾雑物きょうざつぶつ)” の例文
真理は断じてる教義教条の独占物ではない。むろんいずれの教義にも真理の種子はある。が、いずれの教義にも誤謬ごびゅう夾雑物きょうざつぶつがある。
むしろ彼らはそうした風趣をば無用の夾雑物きょうざつぶつと非し、ひたすら、物語本位、筋本位の安価低俗の構成を要求したのだろう。
ここに何等の夾雑物きょうざつぶつ的な感情が無ければ、彼が外科医としての希望を断念して了うことは、当然のことであった。
作家と作品との間に内容的には空白な夾雑物きょうざつぶつがあって、その空白な夾雑物が思考し、作品をあやつり、あまつさえ作家自体、人間すらもあやつっているのだ。
デカダン文学論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
私の仕事と云えば、色々な夾雑物きょうざつぶつばかりのもので、本当はこれとして澄んだものが一つもない。実際ここまでは来たけれど、ここから道が切れてしまった感じなのです。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
明るさが次第に、野に丘に海に加わって行く。何か起るに違いない。生活の残渣ざんさ夾雑物きょうざつぶつを掃出して呉れる何かが起るに違いないというよろこばしい予感に、私の心は膨れていた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
では、一体何が、本能の処理に、これほどたくさんの夾雑物きょうざつぶつを投げ込んで、近代人を惑わしているかと言うと、ここでも、資本主義の天才的狡猾さが、もう一度責められなければなりません。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
我々はそれに媒介せられながらその媒介を忘れて直接に表現せられたものを見ることができる。著者の文章は、なお時々夾雑物きょうざつぶつを感じさせるとはいえ、著しくこの理想に近づいて来たように思う。
『青丘雑記』を読む (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
といって、そこにはいささかも、醜い斧鉞ふえつの跡などが残っている訳ではありません。そういう意味ではなくて、これを天然の風景と見る時は、余りに整い過ぎ、夾雑物きょうざつぶつがなさ過ぎるからなのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それが皺曲しゅうきょくや断層やまた地下熔岩の迸出へいしゅつによって生じた脈状あるいは塊状の夾雑物きょうざつぶつによって複雑な構造物を形成している。その構造の如何なる部分に如何なる移動が起ったかが第一義的の問題である。
地震雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
かるが故に神につきての観念は、人智の進歩に連れて次第に変化し、枝葉の点においては、必ずしも一致していないのである。加之しかのみならずバイブルの中には、人間的誤謬ごびゅう夾雑物きょうざつぶつが少くない。