大蘇芳年たいそよしとし)” の例文
血の臭いに酔って、無暗むやみに吠え付く犬を叱りながら、桐油とうゆをすっぽりかぶって、降りしきる細雨の中をやって来たのは、絵師の月岡米次郎つきおかよねじろうこと、大蘇芳年たいそよしとしの一風変った姿です。
芳年写生帖 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
子爵はやはり微笑を浮べながら、私のことばを聞いていたが、静にその硝子戸棚の前を去って、隣のそれに並べてある大蘇芳年たいそよしとしの浮世絵の方へ、ゆっくりした歩調で歩みよると
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お妻の胸元を刺貫き——洋刀サアベルか——はてな、そこまでは聞いておかない——返す刀で、峨々ががたる巌石いわおそびらに、十文字の立ち腹を掻切かっきって、大蘇芳年たいそよしとしの筆のさえを見よ、描く処の錦絵にしきえのごとく
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
古河黙阿弥ふるかはもくあみの著述に大蘇芳年たいそよしとしの絵を挿入さしいれた「霜夜鐘十時辻占しもよのかねじふじのつじうら」。伊藤橋塘いとうけいたうと云ふ人の書いた「花春時相政はなのはるときにあひまさ」といふ侠客伝けふかくでんもある。「高橋たかはしでん」や「夜嵐よあらしきぬ」のやうな流行の毒婦伝もある。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)