売代うりしろ)” の例文
旧字:賣代
持主は又附加つけたして、この種牛の肉の売代うりしろを分けて、亡くなつた牧夫の追善に供へたいから、せめて其で仏の心を慰めて呉れといふことを話した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
わが身は父上と共に家財を売代うりしろなし、親子の巡礼の姿となりて四国路さして行く程もなく、此の山中に迷ひ入り、此の寺に一夜の宿を借り候ひぬ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もしも少しのお金にて済む事ならば、我が身のかざり髪の道具も何ならむ。残らず売代うりしろしてなりとも、方様のお身を自由にさせまし、我も恋しきお顔見たけれど。
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
前にも云った通り当座は身についたものを一つ売り二つ売りしてしのいだが、今はその売代うりしろさえ尽きた。夫の公判の期日は迫っている。愈〻公判となれば正式に弁護士を依頼しなければならない。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
ホッと思出したように蘇生いきかえるような溜息ためいきいて置いて、捨吉は帳場の右からも左からも集って来る店の売代うりしろを受取った。その金高と品物の名前とを一々帳面に書きとめた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)