執拗しゅうね)” の例文
両手をわなわなふるわせて、肩で息を切りながら、眼を、眼球めだままぶたの外へ出そうになるほど、見開いて、唖のように執拗しゅうねく黙っている。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その一回もまたしばらくするとめになった。そうして葛湯の分量が少しずつ増して来た。同時に口の中が執拗しゅうねねばり始めた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
頼んで執拗しゅうねく掛け合いに参ったのは丹後守の反間苦肉じゃ。否と申せば、公儀上席の御老中の顔をつぶすようにもなるで、無念ながら今日の所は渡してつかわせい……
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『そうだったのだ! そうだったのだ!』と彼は執拗しゅうねく心の中でくり返した。
何故、このように執拗しゅうねく彼をさがさなければならないのか、人間はお互に知らない者同士が眼とか頭とかでその生活を少しでも知ると、後篇ともいうべきその人間を何かの弾みに知りたくなるものだ。
たとえ盗人たちが、意地悪く子の親を問いつめても、彼女は両手を胸に組んだまま、はずかしそうに目を伏せて、いよいよ執拗しゅうねく黙ってしまう。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかもあまり綺麗きれいではない。その上へやの中が妙なにおいを放つ。支那人が執拗しゅうねざりにして行った臭だから、いくら綺麗好きの日本人が掃除をしたって、依然として臭い。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すなわち年来わが御主君にたいして事ごとに邪視あそばしておられる信長公の執拗しゅうねきお憎しみが……ついに、ついに、かくばかり露骨となられ、事ここにいたらしめたものであると。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
相手を殺したのに、気のゆるんだ次郎は、前よりもいっそう、この狩犬の執拗しゅうねい働きに悩まされた。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自分は次の停留所へ来る前また執拗しゅうねく同じ問をかけて見た。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ともしは、その炎のまわりに無数の輪をかけながら、執拗しゅうねい夜に攻められて、心細い光を放っている。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)