しわ)” の例文
彼はしわがれた低い声で、一大事を打ちあけるかのように、少佐の顔を見つめながら、こんな風に云うのであった。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しわがれた女の声で『誰だね、門を敲いてるのは? 何を騒いでるだね?』と言うのを主従は耳にした。
「わが子よ」しわがれし声にて呼びぬ。答なし。窓を吹く風の音あやしく鳴りぬ。夢なるかうつつなるか。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
病気でもあるらしいしわがれてがさがさした声、——どの一つを取っても昔のおもかげはない、おもんであることは慥かだが、しかしそれはもう決しておもんではなかった。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
片方の足を厚ぼったく繃帯し、そのように萎れている伸子が惨めな有様に見えたのだろう、先生は、老年で幾分しわがれたが、生彩のある音声で、ねんごろに彼女の健康を尋ねた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
これも、長煙管を、火鉢の縁で、コンコン鳴らしながら、男のようなしわがれ声で
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
その声は、火煙のためにしわがれてはいたが……。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「京助や」と云ったがしわがれた声であった。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
喝采の声もしわがれていつた。
傾ける殿堂 (新字旧仮名) / 上里春生(著)
しわがれたふるえ声である。もう五十歳を越えた年配かと、推定された。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
話しては、ややしわがれた平坦な音声で、常識的に話を進めて行く。伸子の興味は、又程なくそれに物足りなさを覚えてきた。彼女は、話をききながら、向い側に並んでいる男達の顔を見較べはじめた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)