)” の例文
その言葉と一種のにやにや笑いとがおれをしかけたんだ。おれは自分でも吃驚びっくりしたんだが、かっとのぼせたみたようになって
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「あれサ、あたしゃ御新さんをしかけていたんだよ。ねえ御新さん、久しぶりですもの。しっかり可愛がっておもらいなさいよ」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼は何かにしかけられてでもいるかのように絶えず身体を動かしながら響のある声で語った。だが、それはほんの数分間に過ぎなかった。
運命について (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
旦那がやかましく仰しゃりゃ、またこしらえさせますからさって、しかけたものでさあ
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「丹三郎はまずともかく、七十郎の死は誤っている、彼は侍の意地とか面目とか、本分などということで自分をしかけた」
もう一度自分の部屋を見ておこうという気持にしかけられて、扉をあけるとボーイの笹尾が私のうしろに立っている。
「そうじゃ。そうじゃ」日向一学が、止せばいいのに背後のほうからしかけて、「まげを掴んで引き起すのじゃ」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そして勇気をだしてやってみろとしかけたのです、初めは信じなかったんですが、恋に眼も昏んでいたし、ごらんのとおりの愚直者ですから
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは何か異常な衝動にしかけられているもののように彼の耳に迫ってきた。その鳴声は彼の心に生々しい性慾を喚び起した。彼は力無く蒲団の上にぐったりとよこたわっている妻の姿を想像した。
河鹿 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
自分をしかけながら、主人の居間と思われる部屋の表へ来ると、廊下へかがんで静かに障子を引き明けた。
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
という気持にしかけられたことが動機どうきを成している。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
思わずこう呟いて頭を振り、笠の前を下ろしながら、しかけるような足どりで彼は急ぎだした。
金五十両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
良江の口ぶりは彼を止めるのではなく、しかけるように聞えた。もちろん、彼女にそんな意志はない、亭主が酔いすぎているから、いってもむだだとわかっていたのである。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その回想にしかけられるかのように、六兵衛は大きく、あぐらをかいて坐り直した。
ひとごろし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お紋はいないだろうが、雨で藤七老人は家だろう、このあいだ酒の馳走になったままだ、色いろな理由が彼をしかけた。彼はつじを右へ曲って、こんどは足ばやに徳右衛門町のほうへ急いだ。
野分 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おなつは、寧ろ自分で自分をしかけながら、その機会の来るのを待った。
契りきぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そういう風に自分をしかけていた、八両なにがしという借金を返し、着物も二枚、三枚と作れるようになったのは、十八になった今年の春からだった。そこへ梶井半之助が現われたのである。
初蕾 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)