君前くんぜん)” の例文
女々めめしいからよ。君前くんぜんであのざまは何のことかい。なぜ泣いたか殿はお気付き遊ばしておられるぞ。あの時も意味ありげに仰有おっしゃった筈じゃ。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
「——いつにない其許そこ弱音よわね、正成がまいっても勝目がないとは、なんとしたことばだ。しかも君前くんぜん、しかも今日の出陣を前に」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、馳走した上、音物いんもつを贈って、さまざま君前くんぜんを申しなだめて貰いもし、また、営中の形勢をもただそうとしたのだが、飛騨守は、たもとを払って
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
しかし座を占めると同時だった。不思議なことにその千之介が君前くんぜんはばかりもなく、突然、声をこらえ乍らかすかに忍び泣いた。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)