吐呑とどん)” の例文
吾輩の背中せなかの毛が靴刷毛くつばけで逆にすられたような心持がする。しばらくは足音もしない。細君を見るとだ口をあいて太平の空気を夢中に吐呑とどんしている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
猫などは生涯しょうがいこんな恥をかいた事がない。元来口は音を出すため鼻は空気を吐呑とどんするための道具である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
腹のしにも血の道の薬にもならないものを、はずかしもなく吐呑とどんしてはばからざる以上は、吾輩が金田に出入しゅつにゅうするのを、あまり大きな声でとがてをして貰いたくない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
墨汁に比すべき余が乞食の如き有様にてウェストミンスターあたりを徘徊はいかいして、人工的に煤烟ばいえんの雲をみなぎらしつつあるこの大都会の空気の何千立方尺かを二年間に吐呑とどんしたるは
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)