史乗しじょう)” の例文
平和は史乗しじょうの生るる以前より一たびも樹立したことがなかったのであろう。闘争は人間生活の常時で、平和はわずかにこれを為さんがための準備期もしくは休憩期間たるの観なきを得ない。
冬日の窓 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ゆえにその効たるや、智を増すことは史乗しじょうかず、人をいましむるは格言に如かず、富を致すは工商に如かず、功名を得るは卒業の券に如かざるなり。ただ世に文章ありて人すなわちもって具足するにちかし。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ドガ及ツールーヅ・ロートレックが当時自然主義の文学の感化を受けその画題を史乗しじょうの人物神仙に求めず、女工軽業師かるわざし洗濯女せんたくおんな等専ら下賤げせんなる巴里パリー市井しせいの生活に求めんとつとめつつあるの時
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
日本の歴史は少年のころよりわたくしに対しては隠棲といい、退嬰たいえいと称するが如き消極的処世の道を教えた。源平時代の史乗しじょうと伝奇とは平氏の運命の美なること落花の如くなることを知らしめた。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)