収斂しゅうれん)” の例文
その場合には目のレンズはもはや光を収斂しゅうれんするレンズの役目をつとめることができなくなる。網膜も透明になれば光は吸収されない。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「すると結局かねて君の自慢の命名、“地球発狂事件”に収斂しゅうれんするわけじゃないか。抑々そもそもどこを捉えて本事件を“地球発狂”というか、ということになる」
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
あの方の眼が裸の全身をでまわすのが感じられた。それは実際に手で触られるような感じで、視線の当るところの肌に、つぎつぎと収斂しゅうれんが起こったほどであった。
やぶからし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは、もはや二度と誰もこういう方面に触る話をしようとするものはなくなったほど、周囲の人間に肉感的なもの、情慾的なものの触手を収斂しゅうれんさす作用を持っていた。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
たとえば、絶対収斂しゅうれんの場合、昔は順序に無関係に和が定るという意味に用いられていました。それに対して条件的という語がある。今では、絶対値の級数が収斂する意味に使うのです。
愛と美について (新字新仮名) / 太宰治(著)
怪老人は、大男の心臓を、陳君の左胸部へ移し植え、血管をつぎ合したり、収斂しゅうれん、止血剤を施したり、大童おおわらわになって仕事をつづけたが、やがて、左胸部のきずを縫合せてしまうと、ほっと一息入れ
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
たとえ手指の尖端せんたんにでも、そういう気持でちょっとさわれば、すぐ全身に伝わって、こまかな神経の網目に波動と攣縮れんしゅくが起こり、それが眼の色や呼吸や、筋肉の収斂しゅうれん
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
どんな奇抜な方法によって、新元素を作り出したつもりでも、けっきょくは元素表にある元素の一つであるか、あるいはその同位元素であるというところに、収斂しゅうれんしてしまうのがおちであろう。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
だが、雪子は羞明まばゆいのを犯して、兄の縫ふ傍に立つてゐる弟の裸身に眼をやると同時に、全面的に雪子に向つてき入らうとする魅惑を防禦ぼうぎょして、かの女の筋肉の全細胞は一たん必死に収斂しゅうれんした。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
筋肉にこころよい収斂しゅうれんが起こる、そして奈尾は自分が生きていることを感じるのであった。
合歓木の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)