厚子あつし)” の例文
ある日、梅田新道うめだしんみちにある柳吉の店の前を通り掛ると、厚子あつしを着た柳吉が丁稚でっち相手に地方送りの荷造りを監督かんとくしていた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
お高はその平吉の厚子あつしの下から露出している蒼白あおじろい足さきのちらちらするのを見ていた。そして、その蒼白い足端が見えなくなったところで、ごとごとと云う音がした。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
母親がそういって大きな声で呼んだので、越前屋えちぜんやという仕出し屋の若い主人は印の入った襟のかかった厚子あつし鯉口こいぐちを着て三尺を下の方で前結びにしたままのっそりと入って来た。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
案内を乞うと、出て来たのは漁場の帳場であろう、黒羅紗の厚子あつしを着た四十前後の男であった。くどくどと述べ立てる源吉のいうことをだまってきいていたが、その言葉の切れるのを待って
鰊漁場 (新字新仮名) / 島木健作(著)
いっそ厚子あつしを着た商売人に娘をやれとそう政江に言ってやろうか。あんたは娘の身になって考えないと来るだろうな。が、商売人ほど良いものがあろうか。
俗臭 (新字新仮名) / 織田作之助(著)