十二一重じゅうにひとえ)” の例文
それは十二一重じゅうにひとえを着て緋の袴を穿いた美しい官女の姿であった。大胆な伝蔵は今晩は不思議なこともあるものだとおもって衝立ったなりにそれを見ていた。
蟹の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
涙を払つて——唯今の鸚鵡おうむの声は、わたくしが日本の地を吹流ふきながされて、うした身に成ります、其の船出の夜中に、歴然ありありと聞きました……十二一重じゅうにひとえに緋のはかまを召させられた
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
夏着なつぎ冬着ありたけの襤褸ぼろ十二一重じゅうにひとえをだらりとまとうて、破れしゃっぽのこともあり、黒い髪を長く額に垂らして居ることもあり、或は垢染あかじみた手拭を頬冠ほおかむりのこともある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)