切磋琢磨せっさたくま)” の例文
爾来じらいわが国人の力にて切磋琢磨せっさたくま、もって近世の有様に至り、洋学のごときはそのみなもと遠く宝暦年間にあり〔『蘭学事始』という版本を見るべし〕。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
次第次第に濃い嘘を吐いていって、切磋琢磨せっさたくまされ、ようやく真実の光を放つ。これは私ひとりの場合に限ったことではないようだ。人間万事嘘は誠。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
みな切磋琢磨せっさたくま、幾十年の苦しみや迷いをしてここに至るものを、そちは、わずか一日のうちに、御仏の手から生れ変った嬰児あかごのように誕生したではないか。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
学者は貧富を超えて道を楽しみ礼を好むのでなくてはならない。この道は無限の修養である。切磋琢磨せっさたくまはこのまるところのない無限の道の合い言葉にほかならぬ。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
長らく切磋琢磨せっさたくまの功を御積みになりましたが、さてその大食調入食調だいじきちょうにゅうじきちょうの伝授を御望みになりますと、少納言はどう思召したのか、この仰せばかりは御聞き入れになりません。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それからの彼と云うものは、武事に文事に切磋琢磨せっさたくまし、事ごとに他人ひとの眼を驚かせた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし、それは臆病おくびょうな自尊心とでもいうべきものであった。己は詩によって名を成そうと思いながら、進んで師に就いたり、求めて詩友と交って切磋琢磨せっさたくまに努めたりすることをしなかった。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
傾向を同じうし主義を同じうする作家同士でも、年齢が違ひ境遇が違ふとどうしてもお互に遠慮がある。況んや先生のやうな地位の人に於いてをや。何と云つても切磋琢磨せっさたくまは若い同士の間のことだ。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
兄重蔵の一死に迷夢をまして、江戸愛宕あたご下の松平家を去ってここに三年、人知れぬ密林の切磋琢磨せっさたくまに剣の妙髄みょうずいを工夫し、女滝男滝の水に打たれて禁慾苦行の難道に
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
切磋琢磨せっさたくまの工夫を積んで、金剛杖と戒刀をもって天下無敵の玄妙を自得したのである。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)