凝乎じつ)” の例文
『好し、好し。今帰つてやるよ。僕だつて然う没分暁漢わからずやではないからね、先刻御承知の通り。処でと——』と、腕組をして凝乎じつと考へ込むふうをする。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「若し梅子さん、間違つてたなら勘弁して下ださいな——あの、篠田長二さんて方ぢやありませんか——」言ひつゝ銀子は凝乎じつと梅子を見たり、梅子は胸を押へてた只だうつむきぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
さうして、外からの侵入者に警戒するやうな・幾分敵意を含んだ目で、私の方を凝乎じつと見てゐる樣子である。あれは誰だと、若い女に聞けば、ワタシノダンナサンノオ母サンと答へた。
やがて何喰はぬとりすました顏をして夕餉ゆふげの食卓に向つた。彼は箸を執つたが、千登世はむつちりと默りこくつて凝乎じつ俯向うつむいて膝のあたりを見詰めてゐた。彼は險惡な沈默の壓迫に堪へきれなくて
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
ギシ/\する茶壺の蓋を取つて、中蓋の取手に手を掛けると、其儘後藤君は凝乎じつと考へ込んで了つた。左の眉の根がピクリ、ピクリと神経的に痙攣ひきつけてゐる。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
胸も張り裂けんばかりの新しき苦悩を集中して、梅子は凝乎じつと篠田を仰ぎ見ぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
彼は客の眼を凝乎じつと見詰める。
名人伝 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)