冤罪むじつ)” の例文
「えっ、では、老先生の明智と熱とをもって、ご子息の冤罪むじつを主張なされても、やはり、郁次郎殿は、罪人ときまったのでございますか」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかに彼が冤罪むじつを訴えても、小判二枚を持っていたという証拠がある以上、なかなかその疑いは晴れそうもなかった。しかも彼は幸運であった。
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
理不尽に引っ括って痛め吟味にでも掛ければ、直ぐにも冤罪むじつを引受けそうな気の弱い連中ばっかりじゃ。
「じゃ、冤罪むじつでしょうか」
鬼となっても、我が子を、冤罪むじつ獄舎ごくやから助け出さなければならぬという、燃えるが如き父性愛以外に、何ものもなかった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半鐘はあたかも権太郎の冤罪むじつを証明するように鮮かな音を立てて響いた。このあいだから撞木しゅもくは取りはずしてあるのに、誰がどうしたのか半鐘はやはりいつものように鳴った。
半七捕物帳:06 半鐘の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
同時にあらゆる証拠が揃っていながら「冤罪むじつだな」と名奉行が心付き、又はなんの証拠もなくて反証ばかりあがっていながらテッキリ此奴こやつと名判官が睨むのは、その無私公明、青空止水の如き心鏡に
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ぢや、冤罪むじつでせうか」
「もういい、もういい! おまえの冤罪むじつは、きっと、この父がそそいでやる。気をしッかりせい、心をつよく持て」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おいらが、馴れない人を、むりに仕事に連れて行って、その日に、あいつらのために、窃盗せっとう冤罪むじつをきてしまった、亀田さんのことだけが、すまないんだ! 悲しイんだ
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ありがとうござんす。……ああ、そんな人の情けにはほろりとするが……しかし与力さん、いったい、総督はなんであっしをこんな冤罪むじつわなおとしたものでございますかえ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵どのの身は元より冤罪むじつわざわい、おぬしが行かいでも、解かれるにきまっておる。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「な、なにいってるんです、主従の仲で。が、待って下さいよ、二本の矢を抜いて来ますから。……いや先に鎖をお解きしましょう。ちぇッ、この冤罪むじつのご主人をくるしめた首枷くびかせめ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元々、彼は山東さんとうに古い地方官吏の子であるが、まだ一ぺんも東京とうけいは見ていなかった。それにしても、いちど冤罪むじつの罪でも兇状持の金印いれずみひたいに打たれた身が、どうして京師みやこの人中へ出られたろうか。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)