八重歯やえば)” の例文
弘子は恰好かっこうのよいくちびるをニッとひらいて、神谷の好きな八重歯やえばを見せて甘えるように笑った。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私は娘の八重歯やえばを胸に痛いように感じた。彼女は、私の好きなタイプだと思った。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
生温なまあたたかい感触が、私の身内まで伝わっているのを感じると、アア、私はとうとう、矢場やにわに彼女を抱き寄せ、八重歯やえばのふくれ上った、あのモナ・リザの唇を盗んでしまったのである。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
妙子のつかめば消えてしまい相な、しなやかな身躯からだ、ほほえむとニッと白い八重歯やえばの見える、夢の様に美しい顔、胸のくすぐられる様な甘い声音こわね、それらの一つ一つが、時がたてばたつ程
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
文代さんはそんなことを言って、可愛かわい八重歯やえばであでやかに笑ってみせた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だが、やがて人間ひょうの醜い顔に狡猾こうかつな笑いが浮かんだ。燐光りんこうを放つ両眼が糸のように細くなって、赤い唇がニッとめくれ上がると、きばのように見える白い八重歯やえばが、その隅からチラリとのぞいた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)