克服こくふく)” の例文
そしてその恐怖をつたえるために、同時にまた、それをやがては克服こくふくして、一段と高い境地へすすむために、この作を成したものと思われる。
「ヴェニスに死す」解説 (新字新仮名) / 実吉捷郎(著)
そしてその恐怖をつたえるために、同時にまた、それをやがては克服こくふくして、一段と高い境地へすすむために、この作を成したものと思われる。
と、手をたたいて、京美人の侍女こしもとたちを呼びあつめた。ここばかりは、百難克服こくふく挙藩きょはんの窮乏岡崎の城下ながら、岡崎の外のようだった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あらゆる苦悩くのうにたえて、そうした呪いに似た気持ちを克服こくふくするのだ、と、そう自分に言いきかせて、自分をはげますことに、あるほこりを感じていないのではない。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
あなたは、きつと、私が環境を克服こくふくすべきだつたのだと云ふでせう。さうすべきだつたのです——さうすべきだつたのです。しかし、見られる通り私はさうぢやなかつた。
克服こくふくと、闘争と、勝利との記録とも言うべき大シンフォニー、ブラームスの厳重な形式に託した、雄渾蒼古ゆうこんそうこなシンフォニーを除けば、チャイコフスキーの「悲愴パセティックシンフォニー」と
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
信長にとって常に心の奮うものは眼前の百難を克服こくふくすることと将来の構想であって、彼にとって最も興味のうすいものはその反対な過去の事件であった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
めいめいが正直に、生き生きと自分の全能力を発揮はっきしつつ、矛盾むじゅん衝突しょうとつ克服こくふくし、それを全体として総合し、統一して行く、そういう過程が何よりもたいせつなのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
奈落ならくに対して共感をこばみ、道ならぬものをだんがいしてきた、「みじめな男」の著者、おのれの知を克服こくふくして、あらゆる諷刺ふうし以上に生長しながら、大衆の信頼にともなう義務になれきっている
自分ではもうとうに克服こくふくし得たつもりの弱点でも、それがまだ少しでも尾をひいている限り、父の眼にははっきりとうつるのだ。そう思って彼はひとりでにうなだれてしまった。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
かれらがその運命を克服こくふくして自由になり得たのは、運命の中のささやかな自由をたいせつにし、それを生かしつつ、円周の一点にたどりつくことができた時ではなかったろうか。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)