充填じゅうてん)” の例文
鉛小弾えんしょうだんと鉄釘を充填じゅうてんした一発の榴霰弾が、一挙に三十人以上の人間を炮殺するすさまじい光景に接して、酔いれたるがごとくに陶然とした。
ひどい煙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
金属の molecular な空隙くうげきに潜入してこれを充填じゅうてんするのに好都合であろうと想像することができる。
鐘に釁る (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
袖搦そでがらみ、などという道具のほかに、鉄炮が(関所の格によって数の差はあるが)並べてあり、これはその係りの者がいて、中の一ちょうだけはつねに弾丸を充填じゅうてん
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私はその間隙を何かで充填じゅうてんしようと努力してみることがあるが、どうもそれがうまく行かない。私は此処ここでもそれをその間隙のままにしておくよりしかたがない。
鳥料理 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
碁盤縞が市松いちまつ模様となるのは碁盤の目が二種の異なった色彩によって交互に充填じゅうてんされるからである。しからば模様のもつ色彩はいかなる場合に「いき」であるか。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
ゆえに伊太利ヴェニスの芸術家等は、ゴンドラを焼打ちして水市を破壊し、自動車と飛行機の爆音で充填じゅうてんされた、幾何学的コンクリートの近代都市を造れと言ってる。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
陳君は、この日朝から汽罐かまいた。蒸気が機関のパイプに充満すると、動力をはたらかして、圧搾空気をつくった。それを甲板まで導いて、麻布の風船の中へ充填じゅうてんした。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
どこからどこまで充実した話か依然疑問は残りながらも、一言ごとに栖方の云い方は、空虚なものを充填じゅうてんしつつ淡淡とすすんでいる。梶は自分が驚いているのかどうか、も早やそれも分らなかった。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
マダム・コロムの服、マドレェヌ・バブレェの戦時身分証明と絹の下着、金を充填じゅうてんしたマダム・パスカルの義歯。
青髯二百八十三人の妻 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それは空虚な空間ではなくて、人間にいちばんだいじな酸素と窒素の混合物で充填じゅうてんされ、そうしてあらゆる膠質的こうしつてき浮游物で象嵌ぞうがんされた空間の美しさである。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
第一発を仕損じて、第二発を充填じゅうてんする暇に、とび込んでいって斬ることもできる。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
割れ目の間隙かんげきが 10-8cm 程度である場合にこの種の皮膜ができればそれによって間隙は充填じゅうてんされ、その皮膜はもはや流体としてではなく固体のごとき作用をして
鐘に釁る (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
牛乳びんがいっせいに充填じゅうてんされて行くところだとか、耕作機械の大分列式だとか、これらは子供にもおとなにも、赤にも白にも、無条件におもしろい何物かをもっている。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)