兀々こつこつ)” の例文
な独り同人ばかりでなく、先生の紹介によって、先生の宅に出入する幕賓連中迄兀々こつこつとして筆をこの種の田舎新聞に執ったものだ。
上方は、兀々こつこつとした大磧、その間を縦に細長く彩色しているのは草原、下方は、偃松、ミヤマハンノキ、タケカンバ等が斑状に茂っている。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
見たい土地はふみ難く、兀々こつこつとして月日を送らねばならぬかとおもふに、気のふさぐも道理とせめては貴嬢あなたでもあはれんでくれ給へ、可愛さうなものでは無きかと言ふに
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
百千の媚惑脅迫と難闘して洞穴や深山に苦行をかさねたが、修むるところ人為をいでずで、妻を持ち家を成し偽り言わず神を敬し、朝から晩まで兀々こつこつと履の破れを繕うて
終日終夜、机と首っ引をして、兀々こつこつ出精しゅっせいしながら、さいと自分を安らかに養うほどの働きもない。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
霧は殆んどなく、その頃になると、霞沢岳は、裾がまだ緑であるのに、中腹はモミジで紅く燃えるようになり、頭は兀々こつこつたる花崗岩で、厳粛なる大気の中に、白くさらされている
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
が、蜘蛛は——産後の蜘蛛は、まっ白な広間のまん中に、せ衰えた体を横たえたまま、薔薇の花も太陽も蜂の翅音はおとも忘れたように、たった一匹兀々こつこつと、物思いに沈んでいるばかりであった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
下劣なる趣味を拘泥なく一代に塗抹とまつするは学人の恥辱である。彼らが貴重なる十年二十年をげて故紙堆裏こしたいり兀々こつこつたるは、衣食のためではない、名聞みょうもんのためではない、ないし爵禄財宝しゃくろくざいほうのためではない。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
錫杖の頭を並べたような兀々こつこつした巉岩が数多あまた競い立っている。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)