倚懸よりかか)” の例文
唯一度私が小さい桶を担いで、新家の裏の井戸に水汲に行くと、恰度其処の裏門の柱に藤野さんが倚懸よりかかつてゐて、一人潸々さめざめ泣いてゐた。
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
虎に倚懸よりかかってみんな昼寝しているのだ。豊干ぶかんはもとより先生である。僕は寒山かんざんだか拾得じっとくだか、それは知らないが、一人の欠けていることが物足りない気がした。
西隣塾記 (新字新仮名) / 小山清(著)
ここへ例の女の肩に手弱たおやかな片手を掛け、悩ましい体を、少し倚懸よりかかり、下に浴衣、上へ繻子しゅすの襟のかかった、縞物しまものの、白粉垢おしろいあかに冷たそうなのをかさねて、寝衣ねまきのままの姿であります、幅狭はばせまの巻附帯
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
駅員が二三人、駅夫室の入口に倚懸よりかかつたり、蹲んだりして、時々此方こつちを見ながら、何か小声に語り合つては、無遠慮にどつと笑ふ。静子はそれを避ける様に、ズツと端の方の腰掛に腰を掛けた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)