信濃境しなのざかい)” の例文
落合おちあいの両宿から信濃境しなのざかい十曲峠じっきょくとうげにかかり、あれから木曾路にはいって、馬籠峠の上をも通り過ぎて行った。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この関所をさえ越してしまえば、向うは信濃境しなのざかいまで、山又山が続いているだけであった。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そうして信濃境しなのざかいにさしかかる頃には、おあつらえむきに雨もすっかり上がり、富士見あたりの一帯の枯原も、雨後のせいか、何かいきいきとよみがえったような色さえ帯びて車窓を過ぎた。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ひるならばいうまでもなく、甲州盆地こうしゅうぼんちはそこから一ぼうのうちに見わたされて、おびのごとき笛吹川ふえふきがわ、とおい信濃境しなのざかいの山、すぐ目の下には城下じょうかの町や辻々つじつじの人どおりまでが、まめつぶのごとく見えるであろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)