わたる)” の例文
分ったのは、よほど後のことであるが、織田信澄麾下きかの新参で、伊丹わたるという者の妻なりと知れた。そしてその妻女の名は、菊とも聞えた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「その高志こし大蛇おろちと云うのは、一体どんな怪物なのです。」「人のうわさを聞きますと、かしらと尾とが八つある、八つの谷にもわたるるくらい、大きなくちなわだとか申す事でございます。」
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その一番目は「那智滝祈誓文覚なちのたきちかいのもんがく」で、団十郎の遠藤盛遠、菊五郎の渡辺わたる、芝翫の袈裟御前けさごぜん。中幕は「逆櫓さかろ」で、団十郎の樋口、芝翫のお筆、市蔵の権四郎、八百蔵の重忠、女寅めとらのおよし。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「へい、根岸の加茂川わたるッてんです。」
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そしてこんどは伊丹の侍小路さむらいこうじの古びた邸へ彼を導いた。そこは八弥太の住居で、彼の主人の伊丹わたるが来て待っていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
袈裟けさ盛遠もりとほ」と云ふ独白どくはく体の小説を、四月の中央公論で発表した時、或大阪の人からこんな手紙を貰つた。「袈裟はわたるの義理と盛遠のなさけとに迫られて、みさほを守る為に死を決した烈女である。 ...
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「もと荒木の家中でしたが、このたびの戦いを機に、織田勢の麾下きかに加えられました伊丹兵庫頭の子息、伊丹わたるという者へ、縁があって、嫁ぐことになりました」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)