五歩いつあし)” の例文
女の足でも五歩いつあしは無い、き正面の格子戸から物静かに音ずれたが、あの調子なれば、話声は早や聞えそうなもの、と思う妹の声も響かず
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから山内の森の中へ来ると、月が木間このまから蒼然そうぜんたる光をもらして一段の趣を加えていたが、母は我々より五歩いつあしばかり先を歩るいていました。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「ぷッ、」と噴出すように更に笑った女が、たまらぬといったていに、裾をぱッぱッと、もとのかたへ、五歩いつあし六歩むあし駈戻かけもどって、じたように胸を折って
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
池のつづまる、この板を置いたぐちは、ものの五歩いつあしはない。水は川からそそいで、橋を抜ける、と土手形どてなりあぜに沿って、あしの根へみ込むように、何処どことなく隠れて、田のあぜへと落ちてく。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)