九仞きゅうじん)” の例文
足もとの大地が九仞きゅうじんの底へめりこむような顔をしたのも、あながち、平常の心がけなき者とばかりわらえもしないことであった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
九仞きゅうじんの上に一簣いっきを加える。加えぬと足らぬ、加えるとあやうい。思う人にはわぬがましだろ」と羽団扇はうちわがまた動く。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(もう、一押ししないと、九仞きゅうじんの功を、何んとかに欠くということになる)
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
けれども、もう少しと云うところで今度も細君は助かってしまったのです。夫の心になってみれば、九仞きゅうじんの功を一簣いっきいた、———とでも云うべきでしょう。そこで、夫は又工夫をらしました。
途上 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかも直下する途中で提灯の体へ火がついたから、一団の火の玉が九仞きゅうじんの底に落つるような光景を、兵馬はめざましく見物しました。おそらく、ほかの市中の人もそれをめざましく見物したでしょう。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その恐ろしさに比例して、九仞きゅうじんに失った命を一簣いっきに取り留めるうれしさはまた特別であった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)