中日ちゅうにち)” の例文
と言うのはその秋の彼岸ひがん中日ちゅうにち、萩野半之丞は「青ペン」のお松に一通の遺書いしょを残したまま、突然風変ふうがわりの自殺をしたのです。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし相対原理が一般化されて重力に関する学者の考えが一変しても、りんごはやはり下へ落ち、彼岸ひがん中日ちゅうにちには太陽が春分点に来る。これだけは確実である。
春六題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
昨日きのう彼岸ひがん中日ちゅうにちである事を自分はこの牡丹餅によって始めて知ったのである。自分はあによめの顔を見て真面目に「食べませんか」と尋ねた。彼女はたちまち吹き出した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やがて時節は彼岸ひがんになる。十五夜の月見が年によって彼岸の中日ちゅうにちと同じになることもある。昼夜等分の頃が蛼の合奏の最も調子が高く最も力のつよいその絶頂であろう。
虫の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
文「左様かな、しか今日こんにち霜月しもつき中日ちゅうにち短日たんじつとは云いながらもう薄暗くなったなア」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「彼岸の中日ちゅうにちになると真赤な夕日が斜坑の真正面まむこうに沈むぞい。南無なむ南無南無……」
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼岸の中日ちゅうにちには、その原稿がもうたいていできかかっていた。その日は本堂の如来様にはめずらしく蝋燭ろうそくがともされて、和尚さんが朝のうち一時間ほど、紫の衣に錦襴きんらん袈裟けさをかけて読経どきょうをした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
彼岸七日の真中を中日ちゅうにちという、春季皇霊祭に当る。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)