両頬りょうほお)” の例文
旧字:兩頬
連呼しながら、僕は、両頬りょうほおに伝う熱い涙を感じたが、それをぬぐおうともせず、なおも石油ポンプの把手を、力のかぎり、根かぎり押した。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
薄黒い顔の両頬りょうほおがポッと赤らんだ上州あたりからぽっと出の、田舎田舎いなかいなかした、しかしなかなか愛くるしい娘さんであった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その居処を突き留めたよろこびやら悲しみやらが一緒に込み上げて来て、熱い玉のような涙がはらはらと両頬りょうほおに流れ落ちた。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
と、彼女は急に妖艶な微笑を両頬りょうほおに揺るがしながら、彼の腕の中から身をひるがえして踊り出した。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
真上から電灯の直射をうけてせた麻川氏の両頬りょうほおへ一筋ずつ河のように太いくまが現われた。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
小さい笑窪えくぼのある両頬りょうほおなども熟したあんずのようにまるまるしている。………
点鬼簿 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
冬など蒼白いほど白い顔の色が一層さびしく沈んで、いつも銀杏いちょうがえしに結った房々とした鬢の毛が細おもての両頬りょうほおをおおうて、長く取ったたぼつるのような頸筋くびすじから半襟はんえりおおいかぶさっていた。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)