下辺したべ)” の例文
旧字:下邊
と、その時、星の下辺したべ、屋根棟低く黒々と、まりのような物が飛んでゆく。風を切るのは翼の音、鳥にしては大きな鳥だ。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
空は真っ赤だ、火事は盛ん! それの下辺したべを黒々と、駕籠も人影も見えなくなった。後に残ったは荻野八重梅。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あるいは下りあるいは登り、道なき道を突き進み、一ときあまり進んだ時、忽ち曠茫こうぼうたるすすきの原、星の下辺したべに見え渡り、一群色濃き森の中よりわずかに見える灯の光。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
立ち尽くし、見詰め合っている二人の頭上には、練り絹に包まれたようなおぼろの月がかかってい、その下辺したべを、帰雁かえるかり一連ひとつらが通っていた。花吹雪が、二人の身を巡った。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ジーッとすだく虫の声、萩の下辺したべから聞こえて来る。河東節は聞こえない。三味線の音も音を絶えた。中庭にともる石燈籠、明滅をするの光、蛾がパサパサとぶつかるらしい。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
山尾はやがて悠然と、結んだ合掌を静かに解き、両眼を涼しく開いたが、胸に懸けた丸鏡を、片手にしっかりと握りながら、月の下辺したべの夜の空へ、キッとその眼を注ぎながら、鏡をサッとひらめかした。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
月の下辺したべを、矩形くけいをなして、渡っているその鳥の姿も見えた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)