一車ひとくるま)” の例文
其父君から遣された家の子が、一車ひとくるまに積み余るほどな家づとを、家に残った家族たち殊に、姫君にと言ってはこんで来た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
一月に一度ぐらいは、種々いろいろ入用のものを、塩やら醤油やら、小さなものは洋燈ランプの心まで、一車ひとくるまずつ調えさっしゃります。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
某村の戸長こちょうは野菜一車ひとくるまを優善に献じたいといって持って来た。優善は「おれ賄賂わいろは取らぬぞ」といってしりぞけた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
もっとも、召使いは、四、五人ほど来たらしいけれど、荷物と言っては、古びた書箱ほんばこと机と、いと貧しい世帯道具が一車ひとくるま、ガタクラと、その宏壮こうそうなる新屋敷へはいったのみである。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)