明治になって一層その傾向が強くなった。この事は芝居の大道具背景小道具等の変せんを見れば一目瞭然いちもくりょうぜんとするはずである。
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
持って来た事があったけれども、あんなのは、一目瞭然いちもくりょうぜん、というのだ、文学のほうではね。どだい、あんな姿で、おしゃくするなんて、失敬だよ。
眉山 (新字新仮名) / 太宰治(著)
商店や会社の事務員といった連中は一目瞭然いちもくりょうぜんたるものであった。そしてそれに私は二つの著しい区別を見分けた。
群集の人 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
銘仙と糸織の区別は彼の眼にも一目瞭然いちもくりょうぜんであった。縕袍どてら見較みくらべると共に、細君を前に置いて、内々心のうちで考えた当時の事が再び意識の域上いきじょうに現われた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これはいて理論で争う必要はない、その作っているところの句を見れば一目瞭然いちもくりょうぜんである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「ここに坐って見ていれば一目瞭然いちもくりょうぜんだ。君はこの店を黙殺してしまったね。ひどいじゃないか。おれは少からず感情を害した。君は自分の行為を義理知らずとは思わないのか?」
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
同情はくが、こんな関係で書きかわす手紙には人目に触れた時の用意がかねてなければならぬはずで、露骨に一目瞭然いちもくりょうぜんに秘密を人が悟るようなことはすべきでないものをと、院はお思いになり
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
必ず「上達部かんだちめ殿上人てんじょうびと」であったものが、「諸大夫しょだいふ、殿上人、上達部」になっている。昔の写本、木版本でない現今の活字本で見る人は一目瞭然いちもくりょうぜんとわかるはずである。文章も悪い、歌も少くなった。
一目瞭然いちもくりょうぜんとはこのことです」
「そうさ、一目瞭然いちもくりょうぜんだ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)