ひよどり)” の例文
「その竹童のからだをさがしに、だんだんうすぐらい檜谷ひのきだにりてゆくと、ピューッと、ひよどりでもいたような、ふえがしたんです」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この時、彼方の寺の栗林でひよどりが沢山来ていているのが聞えた。で、早速家へ引返して二連発の猟銃を持って寺の林へ急いだ。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
寒の雨の降る中を、ひよどりが栴檀の実を食いに来る。鵯も栴檀の実も等しく雨に濡れつつある。寒いながら何となく親しい感じのする句である。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
伊助のなきがらを埋めた庭の隅の、灌木に囲まれた日溜りに、よくひよどりが来ては鳴いていたが、間もなく雪が来てすべてを白く掩い隠してしまった。
柘榴 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
武蔵野むさしのではまだ百舌鳥もずがなき、ひよどりがなき、畑の玉蜀黍とうもろこしの穂が出て、薄紫の豆の花が葉のかげにほのめいているが、ここはもうさながらの冬のけしきで
日光小品 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
はたこなたへとしるべするにやあらんと草鞋のはこび自ら軽らかに箱根街道のぼり行けばひよどりの声左右にかしましく
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
家には外にひよどりが一羽いるがその叫ぶような声はどちらが本物の鵯だかが分らない程懸巣がうまく真似声をする。
懸巣 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
侯爵は鴎の影がなくなつたのでまた安心してかば色の実にくちばしを入れ出した小ひよどりに眼をやりながら言葉を続ける。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ただ間違いのないことは白昼に星を見たことで、(その際にひよどりが高い所を啼いて通ったことも覚えている)
幻覚の実験 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
お墓の土にはこけの花がなんべんか咲いた。山にはどんぐりも落ちれば、ひよどりの鳴く音に落ち葉が降る。
どんぐり (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
すぐ崖のそばへ来て急に鳴き出したらしいひよどりも、声がきこえるだけで姿の見えないのが物足りなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鶯という鳥はその前年の秋から渡って来ている——いわゆる渡り鳥であるところの——頬白ほおじろだとかひよどりだとか百舌鳥もずだとかいうような小鳥類とは全然感じを異にした鳥で
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
長「贅沢と云やア雉子きじうちたてだの、山鳩やひよどりは江戸じゃア喰えねえ、此間こねえだのア旨かったろう」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
時とすると、そのあたりの杉木立の中に遊んでいたひよどりなどが、強く短いきれぎれな声をあげて飛び去ることがある。彼の声は如何にも深山幽谷の気分をもたらすに充分である。
茸をたずねる (新字新仮名) / 飯田蛇笏(著)
冬になると、魚芳はひよどりを持って来て呉れた。彼の店の裏に畑があって、そこへ毎朝沢山小鳥が集まるので、釣針に蚯蚓みみずを附けたものを木の枝に吊しておくと、小鳥は簡単に獲れる。
(新字新仮名) / 原民喜(著)
かんざしの玉のような白い花の咲く八ツ手の葉陰には藪鶯やぶうぐいす笹啼ささなきしている。ひよどりは南天の実を啄もうと縁先に叫び萵雀あおじ鶺鴒せきれいは水たまりの苔を啄みながら庭の上にさえずる。鳩も鳴く。四十雀しじゅうからも鳴く。
写況雑記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
氷店こおりみせ休茶屋やすみぢゃや、赤福売る店、一膳めし、就中なかんずくひよどりの鳴くように、けたたましく往来ゆききを呼ぶ、貝細工、寄木細工の小女どもも、昼から夜へ日脚ひあしの淀みに商売あきない逢魔おうまどき一時ひとしきりなりを鎮めると
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
榎の高いこずえにはひよどりむらがって来た。銀杏のてっぺんで百舌もず高啼たかなく日もあった。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
ひよどりの来る高いけやきこずえはすっかり秋の色にそまり、芝生しばふの中に一叢ひとむら咲き乱れているコスモスの花は、強い日差しに照り映えていた。子供たちは、広い芝生を喜んで、いつまでもけ廻っている。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
わずかに其処に常住するからす——これもこの大きな松の梢の茂みの中に見る時おもひの外の美しい姿となるものである、ことに雨にいゝ——季節によつて往来する山雀やまがら四十雀しじゆうから松雀まつめひよどり、椋鳥、つぐみ
沼津千本松原 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
郊外の家にもひよどりつとに来鳴く可し
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
ひよどりがそつぽを向いて
故郷の花 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
ひよどりが来る 鵯が来る
極楽とんぼ (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
ひよどりよ翅を振りて
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
へさきはそのまま進んだ、けれど佐助の櫓の手は、どうしても大きく動かなかった。——じゃくとして、人影も見えない島には、ひよどりが高く啼いていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんなぼんやりした気分になっているその時に、突然高い空でひよどりがピーッと鳴いて通った。そうしたらその拍子に身がギュッと引きしまって、初めて人心地がついたのだった。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そのうち薄いしもりて、裏の芭蕉ばしょうを見事にくだいた。朝は崖上がけうえ家主やぬしの庭の方で、ひよどりが鋭どい声を立てた。夕方には表を急ぐ豆腐屋の喇叭らっぱに交って、円明寺の木魚の音が聞えた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひよどりも飛んで行つて仕舞しまつた。日のあたたかみで淡雪あわゆきうわつらがつぶやく音を立てながら溶け始めた。侯爵の背中にニンフの浮彫うきぼりが喰ひ込み過ぎた。彼はそこではじめて腰板に腰を下す。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
葉が落ち散つたあとの木の間がほがらかにあかるくなつてゐる。それに此処ここらは百舌鳥もずがくる。ひよどりがくる。たまに鶺鴒せきれいがくることもある。田端たばた音無川おとなしがはのあたりには冬になると何時いつ鶺鴒せきれいが来てゐる。
一番気乗のする時 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
こずえに高く一つ二つ取り残された柿の実も乾きしなびて、霜に染ったその葉さえ大抵たいていは落ちてしまうころである。百舌もずひよどりの声、藪鶯やぶうぐいす笹啼ささなきももうめずらしくはない。この時節に枇杷びわの花がさく。
枇杷の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
が、自分はこの絵を見る度に静かな田舎の空気が画面から流れ出て、森の香は薫り、ひよどりの叫びを聞くような気がする。その外にまだなんだか胸に響くような鋭い喜びと悲しみの念が湧いて来る。
森の絵 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
……ひよどり南天燭なんてんの実、山雀やまがら胡桃くるみですか、いっそ鶯が梅のつぼみをこぼしたのなら知らない事——草稿持込で食っている人間が煮豆を転がす様子では、色恋の沙汰ではありません。——それだのに……
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひよどりが来て
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
さるお大名へおさめる事になっている朝鮮渡りのひよどりで、一番ひとつがいで三十両もする名鳥なのに、この稚妓が今、菓子など喰わせたから怒ったのだと口からつばをとばして云った。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ここにいたち係蹄けいていが仕掛けてあるよ」「あれがひよどりを捉える羽子はごだ」そして、「きのこを生やす木」などと島吉が指さすのを見ながら、これが東京とは思えなかった。月日のない山中の生活のようだ。
酋長 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
其内そのうちうすしもりて、うら芭蕉ばせう見事みごとくだいた。あさ崖上がけうへ家主やぬしにははうで、ひよどりするどいこゑてた。夕方ゆふがたにはおもていそ豆腐屋とうふや喇叭らつぱまじつて、圓明寺ゑんみやうじ木魚もくぎよおときこえた。ます/\みじかくなつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
雪の中では南天の実を餌にして、ひよどりをつかまえたことも何度かある。
傾く年の落ち葉木の実といっしょにひよどりの鳴き声も軒ばに降らせた。
花物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ただ時々松のこずえひよどりの声のするだけだった。
悠々荘 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
衰へ疲れし空にひよどりの飛ぶ秋
ひよどり
青い眼の人形 (新字新仮名) / 野口雨情(著)
三十両もする小鳥屋のひよどりをツイと籠から放して、生涯の借金に背負っても苦にしないでいるもある深川かと思うと、こんな事では、辰巳たつみで遊び客の資格はないのだと
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鳥などは食に飢えているために、ことに簡単な方法で捕えられた。二、三日も降り続いた後の朝に、一尺か二尺四方の黒い土の肌を出しておくと、何の餌もおとりもなくてそれだけでひよどりつぐみが下りてくる。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ひよどり
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
と声に応じて、ひよどりのような若い将軍は、鏘々そうそうと剣甲をひびかせて、彼の眼前にあらわれた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひよどりがやって来てついばむらしいのである。
ひよどり
別後 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
谷間をわたるひよどりの声に、秋は日ましにふかくなる。城草の露もしとど冷たい或る朝だった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若い肉体は、獅子吼ししくしてそう云うとすぐ、ひよどりのごとく、さかさまに駈けていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あれ——という間に、かごの口を開けてひよどりを青空へ逃がしてしまった。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)