がん)” の例文
と和尚さんが有難く説きつけるから、新吉は是からがんに掛けて、法蔵寺へ行っては無縁の墓を掃除して水を上げ香花を手向けまする。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これを見ても彼のおとっつあんが彼を十分に可愛がっていることはわかるのだが、彼が死なないようにというので、神や仏にがんをかけて
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
あの女がまだ娘の時分に、この清水きよみずの観音様へ、がんをかけた事がございました。どうぞ一生安楽に暮せますようにと申しましてな。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
夫婦ふたりして長谷はせへお礼詣りに行って参籠さんろうしたせつ、いただいて来た命名とやら。何ぞ長谷へがんを結んでいたことがあったのかもしれませぬ」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それらのがん掛けのためか、あるいは他に子細があるのか知らないが、お照は正月の七草ごろから弁天さまへ日参をはじめた。
鴛鴦鏡 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
康頼 神をうたがってはいけません。熊野権現くまのごんげん霊験れいげんあらたかな神でございます。これまでかけたがんの一つとして成就じょうじゅしなかったのはありません。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
れを昼のうちに見て置て、夜になるとその封書や髻のあるのをひっさらえて塾にもって帰て開封して見ると、種々しゅじゅ様々のがんが掛けてあるから面白い。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
彼女かのじょは、そのから毎日まいにちかみがんをかけて、「どうかんだ子供こどもが、もう一かえってきますように。」と、みやや、てらへいっていのったのであります。
星の子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
人間なみになりたいと遠くからでも聖者にがんかけをしたらよさそうなものを、そうはしないで、自分がかたわ者に生まれついたのをいいことにして
かたわ者 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
母の考えでは、夫がさむらいであるから、弓矢の神の八幡はちまんへ、こうやって是非ないがんをかけたら、よもやかれぬ道理はなかろうと一図いちずに思いつめている。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この秋に源氏は住吉詣すみよしもうでをした。須磨すま明石あかしで立てたがんを神へ果たすためであって、非常な大がかりな旅になった。廷臣たちが我も我もと随行を望んだ。
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
んでもその社には錆びた二つ三つのはさみを置き、そのがんほどきに切ったらしい、女の黒髪の束にしたのを数多たくさんかねのに結びつけてあったのを憶えている。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
千人斬ろうと思い立ったのだそうである。抽斎はこの事を聞くに及んで、歎息してまなかった。そして自分は医薬を以て千人を救おうというがんおこした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
予をしてあやまたざらしめば、首尾好くがんの満ちたるより、二十日以来張詰はりつめし気の一時にゆるみたるにやあらん。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若い女の人で三輪大明神を拝みに来る人は、たいてい帰りに、楼門の右のわきの「門杉かどすぎ」にがんをかけて行く。
おっ母さんが子授けのがんを掛けたとき私を生ませるくらいなら、生まれてから後も少しは責任があるはずだ、私がこんな躯になったのに知らん顔をするばかりか
茗荷みょうがをとりて信心にいのり、一生茗荷を食すまじきがんをたつれば、奇妙にしるしあること神のごとし。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「新刀試しきもだめしならば一、二度ですむはず……きょうで七、八日もこの辻斬りがつづくというのは、何百人斬りのがんでも立てたものであろうと思われるが——」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのために、世界じゅうの海という海を渡って、神様をがんをかけるやら、お寺に巡礼じゅんれいをするやらで、いろいろに信心しんじんをささげてみましたが、みんな、それはむだでした。
眠る森のお姫さま (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
その癖生駒にがん掛けて酒を断ち、なお朋輩に二十銭、三十銭の小銭を貸すと、必ず利子を取った。
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
従って彼らは、痛みを覚えた幼児が泣き叫んで母を求めるように、病めば必ず熱心にがんをかける。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
がんにかけておせんの茶屋ちゃやかよきゃく山程やまほどあっても、つめるおせんのかたちを、一だっておとこは、おそらく一人ひとりもなかろうじゃねえか。——そこからうまれたこのつめ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
神や仏にがんをかけたり、新聞に広告までしてちかいを立てても悪い癖が止められないのは取りも直さず、自分の頭が、自分の自由にならない事を実地に証明しているのではないか。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
石磴せきとうを登らむとする時その麓なる井のほとりに老婆の石像あるを見、これは何かとしもべに問へば咳嗽せきのばばさまとて、せきを病むものがんを掛け病いゆれば甘酒を供ふるなりといへり。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「なんじゃ、光三さんか。びっくりしたよ。折角のがんかけが、中途半端になるやないか」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
貞婦良人おっとの病を苦慮し東天いまだ白まざる前に社壇にがんを込むる処これ神の教会ならずや、余世の誤解する所となり攻撃四方に起る時友人あり独りたって余を弁ずる時これ神の教会ならずや
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
知礼は問書を得て一閲して嘆賞し、東方にかくの如き深解じんげの人あるか、と感じた。そこで答釈を作ることになった。これより先に永観元年、東大寺の僧奝然ちょうねん入宋にっそう渡天のがんを立てて彼地かのちへ到った。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
母親が子供の病気平癒のがんがけをするのだという。
処女の木とアブ・サルガ (新字新仮名) / 野上豊一郎(著)
よろずの仏のがんよりも 千手せんじゅちかいぞ頼もしき。
わが「がん」の通夜つやを思へば。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
画工一代の悲願と、腕みがきのため、御山みやま金天聖廟きんてんせいびょうの壁画を描くべく娘の玉嬌枝ぎょっきょうしを連れて、数日間、がんがけの参籠さんろうをしていたものだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんのがんがあるか知らないが、早朝に熊野さまへ参詣に出てゆくと、御熊野横町、即ちの羅生門横町で人間の片腕を見付けたと云うのである。
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
弁天へ行ってう云って来い、願掛けは致したが、親の勧めだからおがんを破ると云って来い、それでばちを当てれば至極分らぬ弁天と申すものだ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いつぞやは、ありがとうございました。その、おいなりさまにがんをかけますと、うみがまして、いまではこうしてはたらけるようになりました。」
きつねをおがんだ人たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
かくに自分のがんに掛けて居たその願が、天の恵み、祖先の余徳によって首尾く叶うたことなれば、私のめには第二の大願成就とわねばならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それをきっかけにがんでもほどけたように今までからく持ちこたえていた自制は根こそぎくずされてしまった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「これというのも、わたしが湯島の天神様へがんがけをして上げたのと、それから道庵先生のおかげだよ」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
また自分自身も前生の罪の深いものであろうと不安がりもした。以前から自身のがん果たしのために書かせてあった千部の法華ほけ経の供養を夫人はこの際することとした。
源氏物語:41 御法 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そうして今度はお栄にもわかるように、この黒檀こくたんの麻利耶観音へ、こんながんをかけ始めました。
黒衣聖母 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
昨夜ゆうべ八時いつつすぎから一睡もせずにおがんをこめたから、其の方たちにはもうおかまいがない
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「あたしもいちどおめにかかりたいって、がんがかなったわけだね、ちいちゃん」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
三日前みっかまえよるの四つごろ浜町はまちょうからの使つかいといって、十六七のおとこが、駕籠かごったおんなおくってたそのばん以来いらい、おきしはおせんのくちから、観音様かんのんさまへのがんかけゆえ、むこう三十にちあいだ何事なにごとがあっても
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
がんの泉はとめたるか。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
「その若いおかみさんというのはどこの人で、どんながんを掛けているのかしら」と、半七も同情するように訊いた。
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「どうも長いご無沙汰をしちまいましたが、がんがかなって、やっとこんど東京とうけいへ出て参りましたので、今日はこれをお届けにあがりましたようなわけで」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしこういう事があるたびごとに倉地の心の動きかたをもきっと推察した。そしてはいつでもがんをかけるようにそんな事は夢にも思い出すまいと心に誓った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それから驚いて毘沙門びしゃもん様にがんがけをしたり、占者うらないしゃに見て貰うと、これは内々うち/\の者が取ったに違いないと申しましたから、みんなの文庫や葛籠つゞらを検めようと思って居ります
康頼は何でもがんさえかければ、天神地神てんじんちじん諸仏菩薩しょぶつぼさつ、ことごとくあの男の云うなり次第に、利益りやくを垂れると思うている。つまり康頼の考えでは、神仏も商人と同じなのじゃ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
むかしから、そのしまへいってみたいばかりに、かみがんをかけてかいとなったり、三ねんあいだうみなか修業しゅぎょうをして、さらに白鳥はくちょうとなったり、それまでにして、このしまあこがれてんでゆくのであった。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
源氏は浪速なにわに船を着けて、そこではらいをした。住吉すみよしの神へも無事に帰洛きらくの日の来た報告をして、幾つかのがんを実行しようと思う意志のあることも使いに言わせた。自身は参詣さんけいしなかった。
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)