やから)” の例文
「されば、次の大将は足利殿であろうと、京でも、もっぱらな下馬評です。いまおはなし申しあげた岩松党のやからもそう観ていました」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此他にビブリオターフと云うのがあるが、ターフとは墓の義で、唯いたずらに読みもせぬ書物を買って積んで置くのを楽しむやからである。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
うい傷じゃ、その傷もって天上御政道をみだやからあらば心行くまで打ちらせ、とまでは仰せないが、上将軍家御声がかりの直参傷じきさんきずじゃ。
浄土門の修業は末法濁乱まっぽうじょくらんの時の教えであるから、下根げこん下智のやからを器とする。これを奥州への宣旨とする。それを取り違えてはならない。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お色のっていた欄干から、二間ほど離れた一所ひとところに、五、六人の乞食こじきたかっていた。往来の人の袖に縋り、憐愍あわれみを乞うやからであった。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そしてわざと暗い所をってもつれ合ってゆく柔弱なやからを見るといきなり横づっぽうの一つも張り飛ばしてやりたいほどかんがたって
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
当世風の厚化粧入毛いれげ沢山の庇髪ひさしがみにダイヤモンドちりばめ女優好みの頬紅さしたるよりも洗髪あらいがみに湯上りの薄化粧うれしく思ふやからにはダリヤ
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
これがとまりくと、大形おほがた裕衣ゆかたかはつて、帯広解おびひろげ焼酎せうちうをちびり/\りながら、旅籠屋はたごやをんなのふとつたひざすねげやうといふやからぢや。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかるに彼ら閣臣のやから事前じぜんにその企をきざすによしなからしむるほどの遠見と憂国の誠もなく、事後に局面を急転せしむる機智親切もなく
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
されど世に理窟りくつをも感ぜず思想をも感ぜず詩歌しいかをも感ぜず美術をも感ぜざるものあらば、そは正にこのやからなる事を忘るるなかれ。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これに反していたずらに美人の名に誘われて、目に丁字ていじなしと云うやからが来ると、玄機はごうも仮借せずに、これに侮辱を加えて逐い出してしまう。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
今日普通に成功者と称するやからの中にも、いかなる方法によりて今日の位地を得たかというと、はなはだ怪しげな道を進んだことが分かる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
残らず捨て去ってしまったり、珍味だということをなんにも知らないやからに、むしゃむしゃ食べさせてしまうのはもったいないかぎりである。
残肴の処理 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
もし公のふるまいを見てあざけり笑うものがあれば、それこそ罰あたりのやからであって、心ある者はたゞ/\有難いと思うべきである
かねがね電話使用を禁じたのは、例の時限爆弾のことで、博士に面会しようというやからじょうぜられるのを恐れてのことであった。
前将軍の早世も畢竟ひっきょうこの人あるがためだとして、慶喜を目するに家茂のかたきであると思うやからは幕府内に少なくないばかりでなく
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その真価を判断するだけの眼識のないやからはたちまちこれに雷同して、一時はその説が天下を風靡ふうびするというありさまになる。
民種改善学の実際価値 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
これをいいことにして、誰か、私事をほしいままにしようと考えるやからがあろうか? 社会はよろしく今の子供たちに、深い同情を持たなければならぬ。
日本的童話の提唱 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その他なお商家の豪奢ごうしゃを尽したる例甚だ多く、就中なかんずく外妾がいしょうたくわうること商人に最も多くして、手代のやからに至るまでひそかに養わざるものなしという。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
此の仕掛花火しかけはなびは唯が製造したか知らぬが、蓋し興世玄明のやからだらう。理屈はもあれ景気の好い面白い花火があがれば群衆は喝采かつさいするものである。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
けゃ、けゃ、さういふやからがあさましい最期さいごぐる。さゝ、豫定通さだめどほり、戀人こひゞともとて、居間ゐまのぼり、はやなぐさめてやりめされ。
そんなやからのすることだから、ムキになって腹を立てて見たって始まらないが、そんな出鱈目をひとに教えてすましているようなやつだから、眷族を
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
と言って高く自ら標置するやからがある。また私の花鳥諷詠という語を戸棚とだなの中にしまい込んで置いてなるべく手を触れないようにしておる者もある。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
全体に門付かどつ物貰ものもらいのやからを、すべて人間の落魄らくはくした姿のように考えることは、やや一方に偏した観方みかたなのかも知れない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
こんなのがお金に有り付いたら、二割や三割どころでない、十割以上も飲み喰いして足を出すやからである。ブル以上のブル根性を発揮する連中である。
彼は人から冷やかされていたが、それも成功の妨げにはならなかった。パリーでは滑稽こっけいは身の破滅だと言う人々は、少しもパリーを知らないやからである。
種々雑多な風体のやからが闇黒にまぎれて続々と草庵の裏木戸に吸い込まれたというしらせもあって踏み込んだことだから、よもや間違いとは思われない。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
宗盛卿父子は生捕り、主上は御入水、能登殿はご自害、その他、ご自害、ご入水数知れぬ程で、残ったやからも、今朝、志度の浦にて、全部討ち取りました。
私が余り通俗(非文学的)になり過ぎたか、或いは本来彼等が余り狭い考え方に捉われているか、どちらかだ。かつて私は法律などを勉強するやからわらった。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
君ならでは人にして人に非ずとうたはれし一門の公達きんだち宗徒むねとの人々は言ふもさらなり、華冑攝籙くわちゆうせつろく子弟していの、苟も武門の蔭を覆ひに當世の榮華に誇らんずるやから
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
人間の手や足を切斷したり、脇腹を切開したりするのを、平氣で手傳つて二の腕まで血だらけにして居るやからであるから、何れも皆男といふ者を怖れて居ない。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
人の知るとおり、嫌悪けんおすべきやからはすべていら立ちやすいものであり、怪物はすべて怒りやすいものである。
そしてまさにこの点で彼が、彼の駁撃ばくげきを加えているヘラクリトス、エンペドクレース、アナクサゴラスのやからをいかにはるかに凌駕りょうがしているかを見る事ができよう。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
何に致せ、御一同のような忠臣と、一つ藩に、さようなやからろうとは、考えられも致しませんな。
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かてて加えて諸国より続々と上ってまいる東西両陣の足軽あしがると申せば、昼は合戦、夜は押込みを習いとするやからばかり、その荒々しい人相といい下賤げせんな言葉つきと云い
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
したがって尾閭禁ぜず滄海そうかいきた齶蠅がくよう連は更なり、いまだ二葉の若衆よりかわやに杖つくじいさんまでも、名を一戦の門に留めんと志すやから、皆争うてこれを求めたので
なるほどキリーリンとアチミアーノフは唾棄すべきやからだ。しかし彼らのしたことは彼がはじめたことの延長ではないか。彼らは彼の同類であり弟子なのではないか。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
威勢のよい面構えをした人間もたくさんいたが、これはあらゆる大都会に横行しているあのしゃれた掏摸すりやからに属する連中だということが、私にはたやすくわかった。
群集の人 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
同じく人間に生まれて両眼を具しながら、この美観をみることのできないやからは、これを評して明き盲人と申さねばなりませぬ。なんと気の毒千万ではありますまいか。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
わたしは問題の核心をくために——なぜならば核心は信念であるから——わたしはそういうやからに対して、大釘を食ったって生きていけると答えてやるのを常とした。
「小太郎、長持を運べ——いや、待て——佐田氏、人間には足があって、すぐにも、御門前へ出られるが、この長持、諸道具と申すやからには、不憫ふびんながら、足が無うて」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
彼に心を寄せしやからは皆彼が夜深よふけ帰途かへりの程を気遣きづかひて、我ねがはくは何処いづくまでも送らんと、したたおもひに念ひけれど、彼等の深切しんせつは無用にも、宮の帰る時一人の男附添ひたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こちとらが嗅煙草を嗅ぐよりもたやすく懺悔僧にむかつて嘘八百をならべ立てるやうな不心得な外道にもよく出会つたものぢやが、そのやうなやからでも、妖女ウェーヂマの話が出れば
無条件に衣食を乞うが如きやからは、真の乞食で、これは論外でありますが、農業以外の雑多の職業は、大体において自然公民以外の落伍者の従事するものとなりましたから
詩人の韜晦とうかい趣味を解さないやからにも困るね。まあ自ら冤罪を招いたようなものだ。誰を恨むこともない。ところで容貌のことでは、昔僕に一つのアネクドートがあるんだね。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
客と見れば妙な手つきをして妙な声を張り上げるあのやからの幇間とは較べものにならなかった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
みだりにこれを譴責けんせきし、はなはだしきは師友をうらむるのやから少からず、迷えるのはなはだしきにあらずや。
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
……此世は常のすみかに非ず、草葉に置く白露、水に宿る月より猶怪し、金谷かなやに花を詠じし栄華は先立さきだって、無常の風に誘はるゝ、南楼の月をもてあそやからも月に先立て有為の雲に隠れり。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
『ツィゴイネルワイゼン』はこうひくもの、『ロンド・デ・ルタン』のピチカットはこんな具合に——などと、技巧の末に神経を使うやからは、まさに愧死きししてもいいくらいのものだ。
そして、いたずらに異教のやからを焼く炬火の爆音のすさまじい土地を選んだわけなのだ。