おど)” の例文
「……そうしてきりの舞台に閻魔えんまさまでもおどらして地獄もこの頃はひまだという有様でも見せるかな……なるほど、これは面白そうだ」
勿論、兇器きょうきは離さない。うわそらの足がおどつて、ともすれば局の袴につまずかうとするさまは、燃立もえた躑躅つつじの花のうちに、いたちが狂ふやうである。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
もしか敵役かたきやくでも出ようものなら熱誠をめた怒罵どばの声が場内に充満いっぱいになる不秩序なにぎやかさが心もおどるように思わせたのに違いない。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
まれには、つきひかりが、なみうえしずかにらすよるになってから、かんがきわまって、とつぜんうみなかおどらしたものもあったのです。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
自分の命令に従う小さなのでもありはすまいかと思って、胸をおどらせながら横目でうかがった。しかし雲は平然と左の方へ飛びつづけた。
薄暗がりの中に、たゞ灰一色に充満していた職工たちが——その集団が——悍しい肩と肩が、瞬間にクッキリとおどり上った。誰かゞ
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
広い縁の向うに泉水せんすいの見える部屋だ。庭いっぱい、黄金こがねいろの液体のような日光がおどって、霜枯しもがれの草の葉が蒼穹あおぞらの色を映している。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
米友はついに、後ろへ向けた籠の戸を充分にあけ払ってやると、はばたきをして、丸くなって、外の闇へおどり出してしまった鷲の子。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
牛丸平太郎が、おどりあがってよろこんでいる姿を見つけて少年探偵団の、小玉、横光、田畑の三君が、何事なにごとならんとかけつけてきた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
考えて考えて考え抜いた兄さんの頭には、血と涙で書かれた宗教の二字が、最後の手段として、おどり叫んでいる事を知っていました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
藪入やぶいりの小僧こぞうさん、学校帰りの腕白わんぱく、中には色気盛りの若い衆までが「ここはお国を何百里」と、喜び勇んで、お馬の背中でおどるのだ。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこから赤裸になっておどり出したところに、いかばかり特色のある山岳景を作り出したか、私は次にこれを言って見たいのである。
日本山岳景の特色 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ふすま一つ隔てた隣室に眠っていた大川氏はこの声に目をさましいきなり枕元においてあったピストルを携えて隣室におどりこんだのである。
黄昏の告白 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
わたしは絶えず何ものかを心待ちにし、絶えず何ものかにびくびくし、見るもの聞くものに心をおどらし、全身これ待機の姿勢にあった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
告示板を利用して女優が自分の名前を宣伝していた。妹が見合をするのに、もうお嫁に行った姉さんの方が、よけい胸をおどらせていた。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
この口唱が一しきり済んで、娘達のまぼろしの一めぐりしたあとへ、屋敷内のありとあらゆる倉々のおもかげが彼の眼の前でおどり始めた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ここまで読みかけると、万吉の胸が処女のようにおどった。彼にも足かけ十年臥薪甞胆がしんしょうたんの事件がある。それへ一曙光しょこうを見出したのだ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いけのきれいななかへ、女蛙をんなかへるをうみました。男蛙をとこかへるがそれをみて、おれのかかあ は水晶すいしやうたまをうんだとおどあがつてよろこびました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
林泉奥深うして水あおく砂白きほとり、鳥き、魚おどつて、念仏、念法、念僧するありさま、まこと末世まっせ奇特きどく稀代きたいの浄地とおぼえたり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
竿立ちになっておどり上った二頭の早馬は、なんと剛気なことにも、二頭共々々揃いに揃って、あやかになやましい牝馬めうまなのでした。
と、どこから登って来たか、爛々らんらんと眼を光らせたとらが一匹、忽然こつぜんと岩の上におどり上って、杜子春の姿をにらみながら、一声高くたけりました。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
月光げつくわうそのなめらかなる葉のおもに落ちて、葉はながら碧玉へきぎよくあふぎれるが、其上そのうへにまた黒き斑点はんてんありてちら/\おどれり。李樹すもゝの影のうつれるなり。
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
(とうとうまぎれんだ、人の世界せかいのツェラ高原の空間から天の空間へふっとまぎれこんだのだ。)私はむねおどらせながらう思いました。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
異様なそうして貧弱な肉塊が突然土方におどりかかった。それが禅僧と分るまで、若者達の誰一人禅僧の存在に気付いた者がいなかったのだ。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ミチは一気に浴槽からおどり出し、薔薇色の肉体を夜明けの電燈の光にらし、湯気に包まれた自分の腹を見下ろして、刺青の唐子を指さす。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
しかし、お竜ちゃんは、大きな、無恰好ぶかっこうな数字が一めんにおどっているような私の帳面の方は偸見ぬすみみさえもしようとはしなかった。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
津村はその期待に胸をおどらせつつ、晴れた十二月のある日の朝、上市かみいちからくるまやとって、今日私たちが歩いて来たこの街道を国栖へ急がせた。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
円道はじめ一山いっさんの僧徒もおどりあがって歓喜よろこび、これでこそ感応寺の五重塔なれ、あら嬉しや、我らが頼む師は当世に肩を比すべき人もなく
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
すると、腹をうたれたらしい一匹がもがいていると、他が危険をおかしてそれにおどりかかり、滅茶滅茶めちゃめちゃに角で突いて殺してしまったのである。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
広巳は円木棒をって松山におどりかかった。松山はそのいきおい辟易へきえきして後すさりした。半ちゃんは半身を起しただけであった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あたかも日本画が僅少きんしょうの線をもって描きて自然物を躍如やくじょたらしむるが如く、数語を以て各動物を読者の前におどらせるのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
髪のある僧侶として自分を考えるには、彼の胸におどる血潮はあまりに生々なまなましく、彼の歩いて来た道はあまりに罪が深かった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
だから、非常にひよわなさかなのように思われているが、その実、鮎は俎上そじょうにのせて頭をはねても、ぽんぽんおどり上がるほど元気溌剌はつらつたる魚だ。
鮎の食い方 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
お代は腹立たしさにおどんで大原にしがみ付かんと思いしがほかに立派なる老人の客あり、若き娘もその席に見ゆるとて心に幾分かはばかる処あり。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
左内坂の近くへくると、ひどく胸がおどって、思うように歩かれない。心では、飛んで行きたいほどに思うのだが、足のほうがいうことをきかない。
よ、わが愛する者の姿みゆ。視よ、山をとび、おかおどりこえ来る。わが愛する者はしかのごとく、また小鹿のごとし)
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
國藏と森松は気も顛倒てんどうして、物をも云わずおどり上って飛出し、文治の顔を見るより、あッと腰を抜かしてしまいました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
陳字も少くはないが、皆先きを争い、遅るるを恐れるように彼の眼の中におどり上って来た。しかしそれに繋がっているのは士成の二字ではなかった。
白光 (新字新仮名) / 魯迅(著)
そして、その一夜こそは、どんなに好奇の心をおどらせながら、灯のまたたくキャンプの中に、一同とともに眠られぬ一夜を明かしたことであったろうか。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
しかもその繊細さ、精妙さのうちに「もちあそび」といってしまえない「生命感」がやどっていた。堅実なしみ/″\した「生命感」がおどっていた。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
『もしかあの女は遠からず死ぬるのじゃアあるまいか』という一念がいなずまのように僕の心中最も暗き底にひらめいたと思うと僕は思わずおどり上がりました。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
おどらせて四方を見廻した菊弥の眼に入ったのは、蔵の壁に沿って、こんもりと茂っている漆らしい藪であった。
鸚鵡蔵代首伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
真黒まっくろけたからだおどくるわせてみずくぐりをしているところはまるで河童かっぱのよう、よくあんなにもふざけられたものだと感心かんしんされるくらいでございます。
旅へのいざないが、次第に私の空想ロマンから消えて行った。昔はただそれの表象、汽車や、汽船や、見知らぬ他国の町々やを、イメージするだけでも心がおどった。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
その時背に負はれたるわれは、風に吹きほのおの偉大なる美に浮かれて、バイバイ(提灯のこと)バイバイとおどり上りて喜びたり、と母は語りたまひき。
わが幼時の美感 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そこには黒い雲のような物があって飛ぼうとしていた。万は刀を以ておどりかかってその一方の足を斬りおとした。
五通 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「紅子戯語」には当時の硯友社の生活がけるが如くに描かれ、幹部の八人の風丰ふうぼう動作が紙上におどり出している。
お庄は芝居の書割りのなかにおびき入れられたような心持で、走る俥の上にじッと坐っていられなくなった。ふわふわするような胸の血が軽くおどっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
黄金色こがねいろに藻の花の咲く入江いりえを出ると、広々とした沼のおも、絶えて久しい赤禿あかはげの駒が岳が忽眼前におどり出た。東の肩からあるか無いかのけぶり立上のぼって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
この映画の頂点やまはヒロインが舞台で衣裳をかなぐり捨てブロンドのかつらを叩きつけて煩わしい虚偽の世界から自由な真実の天地におどり出す場面であって
映画雑感(Ⅴ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)