すく)” の例文
と云いながらそばへ寄って、源三の衣領えりくつろげて奇麗きれいな指で触ってみると、源三はくすぐったいと云ったように頸をすくめてさえぎりながら
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
懐中ふところも冷めてえが、浮世も冷めてえ」首をすくめてヒョロヒョロと歩くと、また懲りずまに門に立ち、河東節の三味線を弾き出した。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
思いのほか、声だけは確であったが、悪寒がするか、いじけた小児こどもがいやいやをすると同一おなじすくめた首を破れた寝ン寝子の襟にこすって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
立ちすくんだも道理、手箱の中には一とつかみの灰だけ。確か其處へ入れた筈の、巨盜の手紙三本は、煙の如く消えてしまつたのです。
身輕手輕とそればかりをせんにしたる旅出立たびでたちなれば二方荒神の中にすくまりてまだ雨を持つ雲の中にのぼる太華山人其のさぶさを察し袷羽織あはせばおり
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
由平は婢の肩端かたはじへ斬りつけた。婢は悲鳴をあげて倒れた。婢の悲鳴を聞きつけてあがって来た主翁ていしゅは、由平のうしろから抱きすくめようとした。
阿芳の怨霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「用心しないと不可いけない。何処どこからか石を投げる奴があるぞ。」と、巡査は注意した。権次は首をすくめて岩のかげに隠れた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は途々みちみちこの一言いちごんを胸に幾度いくたびか繰返した、そして一念はしなくもその夜の先生の怒罵どばに触れると急に足がすくむよう思った。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
不図ふと、その線路のそばで、饅頭笠まんぢゆうがさを冠つて居る例の番人に逢つた。私はからだすくめずに其番小屋の側を通れなかつた。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
代助はアンドレーフの「七刑人」の最後の模様を、此所まで頭の中で繰り返してみて、ぞっと肩をすくめた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんな有樣で二階に居る身も氣が氣でない。さながら自分等があの亂暴な野卑な催促を受けて居るかのやうで二人とも息を殺して身を小さくしてすくんでゐたのである。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
私もそれから彼方此方あっちこっちと見物も致しましたが、私は此の様にふとってますもんですから、股がすくむようで何だかがっかり致しますので、それから何でございますね
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
代助はアンドレーフの『七刑人』の最後の模樣を、此所迄頭の中で繰り返して見て、ぞつと肩をすくめた。
知られざる漱石 (旧字旧仮名) / 小宮豊隆(著)
お嬢さんはお父さんの話を黙って聞きながら、私の心を掻き乱すようなその美しい眼に、淋しいえみを見せて、私をじっと見詰めていた。私は身内からだすくむように思った。
妖影 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
へその下を住家として魂が何時の間にか有頂天外へ宿替をすれば、静かには坐ッてもいられず、ウロウロ座舗を徘徊まごついて、舌を吐たり肩をすくめたり思い出し笑いをしたり
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼女は、首をすくめて、ふとんをかぶると、大丸髷おおまるまげが枕にひっかかった。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
渦巻けむる吹雪に捲かれて、どこにも手がかりの無い岨道を踏み外したが最後、二度と日の目を見られないと思うと、何故とはなしに身体からだすくんで、成るたけ谷に遠い側の足跡を拾い拾い急いで行った。
眼を開く (新字新仮名) / 夢野久作(著)
吉里は足がすくんだようで、あががまちまでは行かれなかッた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
女教師はあわてて首をすくめて、手巾ハンケチで口を抑へた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
最初は驚きすくんだ私ではあるが
航海 (新字新仮名) / 今野大力(著)
いや、駆け出そうとしたのですが、十メートル四方ほどの広間ホールを出て、外へ出る隧道トンネルへかかろうとして立ちすくんでしまったのです。
水中の宮殿 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
さてこの頃宗三郎とお絹は、宗春と浜路の籠っている、その岩部屋の左手の戸口、その外側に立ちすくみながら、なかの様子を窺っていた。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「滅相な。」と帳場を背負しょって、立塞たちふさがるていに腰を掛けた。いや、この時まで、紺の鯉口こいぐちに手首をすくめて、案山子かかしのごとく立ったりける。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを聞くと莚包むしろづつみ焼明たいまつを持った背の高い男は、首をすくめるようにして口をつぐんでしまった。そして、一行は無言になってかわらすそへ往った。
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
沒する程の所あり何卒なにとぞ小山の上を少しの間歩き玉ひてと車夫の乞ふに心得たりと下りては見たれどなまじ車に足をすくめたる爲め痛み強くわづかに蝙蝠傘かうもりがさ
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
煙るやうな夜の空気を浴び乍ら、次第に是方こちらへやつて来る人影を認めた時は、丑松はもう身をすくめて、危険のちかづいたことを思はずには居られなかつたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
頬を吹く雨後あまあがりの寒い朝風は、無数の針を含んでいるようにも感じられたので、市郎は思わずえりすくめながら、充血した眼に大空を仰ぐと、東はようやく明るくなったが
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
代助はアンドレーフの「七刑人」の最後の模様を、此所こゝあたまなかで繰り返して見て、ぞつかたすくめた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ぎょッとして思わず心で叫びながら、立ちすくんだ。辰馬に誘われ、初めて行ってみた賭場とばに運悪く手入れがあって、二人は命からがらここまで落ちのびて来たのである。
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
いずれ川上の方の事だから高いには相違そういないが、おそろしい高い山々が、余り高くって天につかえそうだからわざと首をすくめているというような恰好かっこうをして、がんっている状態ありさま
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
難有ありがとう」と言ったぎり自分が躊躇もじもじしているので斎藤は不審いぶかしそうに自分を見ていたが、「イヤ失敬」と言って去ってしまった。十歩を隔てて彼は振返って見たに違ない。自分は思わずくびすくめた。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ト返答をして文三は肩をすくめる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そんな群集の話を聴くと、お静はハッと立ちすくみました。玉水一座の花形太夫小艶が、綱の上で何か間違いをしたのでしょう。
グイと胸を開けて鳩尾みぞおちを探る。その手にさわった革財布。そのままズルズルと引き出すと、まず手探りで金額たかを数え、じっとなって立ちすくむ。
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わかい男は首をすくめて俯向うつむいておりました。見張の男は背後うしろの方で、手鼻をかむ音をさせました。長者はへやの内をあっちこっちと歩きだしました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
うむかれないな。よし、肯かれなきゃあ無理に肯かすまでのことだ。して見せる事があるわい。というは平常いつも折檻せっかんぞとお藤は手足をすくめ紛る。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おお、寒い。」と、彼女かれは肩をすくめつつ四辺あたりを見廻すと、暗いいえの中には何物も無かった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
突くばかりすぐに峠にて馬車の上にすくみたる足なればチト息ははづみたり此峠にいにしへは棧橋かけはしありしとか思ふに今にして此嶮岨なれば棧橋かけはしあながち一ヶ所に限らず所々しよ/\に在しならん芭蕉の
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
はやる氣になるのもある、散る氣になるのもある、弛む氣の生ずるのもある、たかぶる氣の生ずるのもある、凝る氣の生ずるのもある、すくむ氣の生ずるのも有り、舒びる氣の生ずるのも有る。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そんな群集の話を聽くと、お靜はハツと立ちすくみました。玉水一座の花形太夫小艶が、綱の上で何にか間違ひをしたのでせう。
と呼ばわり、もう一人の乾児が、味方が討たれたのに怯え、立ちすくんでいる所へ、真一文字に寄り、肩を胸まで斬り下げ
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
讓を廊下で抱きすくめたような女と同じぐらいな年恰好かっこうをした年増の女が、隻手かたてに大きなバケツを持って左の方から来た。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
嘉吉が気が違いました一件の時から、いい年をしたものまで、黒門を向うの奥へ、木下闇このしたやみのぞきますと、足がすくんで、一寸も前へ出はいたしませぬ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
右左から清吉を抱きすくめてしまったが、こうなると又おふくろが承知しない。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
立ちすくんだも道理、手箱の中には、一とつかみの灰だけ。確かにそこへ入れたはずの、巨盗の手紙三本は、煙のごとく消えてしまったのです。
もしいつまでも岩を背に、すくんでおいでなさるなら、よろしいよろしい次第に迫り詰め、十二本の白刃一時に、雨のように浴びせてお目にかける。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
中からは遠濤とおなみの音のような人の泣声が聞えてきた。それは物凄い、肉を刻まれ骨を砕かれる時のような叫びであった。譔はもう足がすくんでしまった。
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
やがてはたと地に落ちて、土蜘蛛つちぐもすくむごとく、円くなりてうずくまりしが、またたくひまに立つよとせし、矢のごとく駈けいだして、曲り角にて見えずなりぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鷲のような眼玉に睨まれて、散り残った一団の人数、逃げも隠れもならず、首をすくめ、顔色を失って、ただおろおろと立ちすくむばかりです。
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
襖にピッタリせなをもたせ、立ちすくんでいる幹之介、額から汗が眼へはいる。「俺には出来ない! 俺には出来ない」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)