細工さいく)” の例文
……一体いつたいが、天上界てんじやうかい遊山船ゆさんぶねなぞらへて、丹精たんせいめました細工さいくにござるで、御斉眉おかしづきなかから天人てんにんのやうな上﨟じやうらう御一方おひとかた、とのぞんだげな。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
玩具おもちゃといっても、木の幹を小刀ナイフ一本でけずって、どうやら舟の形に似せたもので、土人の細工さいく物のように不器用な、小さな独木舟まるきぶねだった。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
ところがだん/\進歩しんぽするにしたがつて石塊いしころ多少たしよう細工さいくくはへ、にぎつてものこわすに便利べんりかたちにこしらへるようになりました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
木は何の木か知らぬが細工さいくはただ無器用で素朴であるというほかに何らの特色もない。その上に身を横えた人の身の上も思い合わさるる。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「飛んでもない、親分。戸締りはやかましい上、人の目が多いから、外からノコノコ入つて來て、そんな細工さいくの出來るわけはありません」
細工さいく流々りゅうりゅう仕上しあげ御覧ごらん」というが、物件ぶっけんならば、できた仕事で用にたつが、人間はそうはいかぬ。細工さいくする間の心持ちが大切たいせつである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「まだ、きんがらなかったときで、それにつくった歯医者はいしゃが、学校がっこうたばかりで細工さいくがうまくなかったのですね。」
金歯 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そう言ってお爺さんは、五十センチほどの長さに切った竹筒に、しきりと細工さいくをしていましたが、やがてにっこり笑い
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「細かい松じゃな。うむ、どこからどこまで、いい細工さいくだて——これで、松の数は、三万三千三百三十三あるのか。」
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
天然てんねん細工さいく流々りゅうりゅう、まことに巧妙こうみょうというべきではないか。こうなると他家結婚ができ、したがって強力な種子が生じ、子孫繁殖しそんはんしょくには最も有利である。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
春吉君たちは、六時間めの手工しゅこうをしていた。その日の手工は、かわら屋の森一君がバケツ一ぱい持ってきたねんどで、思い思いの細工さいくをするのである。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
それからヨハネスは、まえかけのなかに金で細工さいくしたいろいろの品物しなものをつつんで、りくにあがりました。そして、まっすぐ王女のおしろへむかっていきました。
此所ここ列擧れつきよしたる製造用の道具どうぐは皆發見物中に在り。石槍、石鏃、石錐、石匕の如く細工さいくの精巧なるものは打製だせい石斧よりは更に注意ちういして作り上げしならん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
そして彼らは聖武天皇の御代に於いて、立派に解放されて平民になっている筈です。穢多の事を古く或いは「細工さいく」と言ったのは、皮細工人ということです。
ばらばらッと追いかけて、蛾次郎のえりがみをひっつかみ、足をはやめて、人無村の細工さいく小屋へかえってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
細工さいくの大きい男は、それだけ、人一倍の修業が必要のようである。自分では、人生の片隅に、つつましく控えているつもりなのに、人は、なかなかそれを認めてくれない。
服装に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
バグリオーニは精巧な細工さいくをほどこした小さい銀の花瓶を、テーブルの上に置いて出て行った。彼は自分の言ったことが青年の心の上にいい効果をあたえることを望んだ。
おきなひめもその細工さいく立派りつぱなのにをどろいてゐますと、そこへうんわるく玉職人たましよくにん親方おやかたがやつてて、千日せんにちあまりも骨折ほねをつてつくつたのに、まだ細工賃さいくちんくださるといふ御沙汰ごさたがないと
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
三成にことさら反乱を起させてまとめて平げようなどという利いた風な細工さいくが自信満々でっちあげられるものではないので、家康にはいた風な見透しなどというものはなかった。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
イヤサ何も彼も己にまかせて一しよに來い細工さいく流々りう/\仕上しあげを見やれサア/\早く支度してと云にお節も一生懸命しやうけんめい村役人へあづけの身なれど跡は野となれ山坂を足に任せて走り行相良の城下を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おやなればめるではけれど細工さいくまこと名人めいじんふてもひと御座ござんした、なれども名人めいじんだとて上手じやうづだとて私等わたしらうちのやうにうまれついたはにもなること出來できないので御座ござんせう
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
第一これは顔を除いて、他はことごとく黒檀こくたんを刻んだ、一尺ばかりの立像である。のみならずくびのまわりへ懸けた十字架形じゅうじかがた瓔珞ようらくも、金と青貝とを象嵌ぞうがんした、極めて精巧な細工さいくらしい。
黒衣聖母 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そうして広東の三水県へ来て、その狂言中に幽霊が出たといい、またその幽霊が墓のありかを教えたといい、細工さいく流々りゅうりゅう、この狂言は大当りに当って、予想以上の好結果を得たというわけだ。
女侠伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのひだの付いた襟や、レースや、帯どめの細工さいくをこらした旧式の美しい服装が、それを着ている死人のような男と不思議の対照をなして、いかにも奇怪に、むしろ怖ろしいようにも見られた。
しかし、写真のトリックがこんなにうまく行く筈はありません。盛装した女の胴体に、お嬢さんの顔丈けを貼りつけたのかと思って、よく調べて見ましたが、そんな細工さいくのあとは少しもないのです。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「頭の毛が引っ込んで溜まるものか。これには細工さいくがあるんだ」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こんな細工さいくをしましたのよ、わたしの頭の上の仕掛しかけ
はんなりと細工さいくに染まるべにうこん 桃隣とうりん
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「どうだい細工さいくは?」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さア、伊三郎、この竹は何處から持出したか、細工さいくは誰がしたか、皆んなに訊けば直ぐわかることだ。恐れ入つてお慈悲を願へツ
左甚五郎ひだりじんごろうは恐らく仕上ばかりに苦心したのでなく、細工さいくしているあいだも精神をめたればこそ、その霊魂たましい彫刻物ちょうこくぶつにも移ったのであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
田舎いなかから、まちて、箔屋はくや弟子入でしいりをして、そして、ならった細工さいくは、すべてたましいはいらない、ごまかしものだった。
心の芽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
さらにまたそのいしみがいてうつくしいかたち器物きぶつつくるようになり、あるひは自分じぶんつた動物どうぶつほね細工さいくくはへて、それを道具どうぐにしたりしたのでありますが
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
けれども本来が性質たちのいい運動だから、三四郎もだいたいのうえにおいて賛成の意を表した。ただその方法が少しく細工さいくに落ちておもしろくないと言った。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けっして別種の水仙ではない。こんな球根への細工さいくは、その方法をもってすれば日本ででもできる。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
かれは、教室で、いちばんうしろに、ひとりでふたり分のつくえをあたえられていたが、授業中にあまり授業に注意しなかった。たいていは、ナイフで鉛筆に細工さいくしていた。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
昔の諺に、「ところ玉造たまつくり」ということがありまして、玉造は土地を持たなかった。また今の京都の天部あまべ部落は、もと四条河原に居まして、これを「四条河原の細工さいく」ともあります。
さア、おもしろいのはここの細工さいくで、そのさきにわれわれが浜松城へまいって、なにかのことを教えてやったら、あのずるい家康も、眼をほそめて、うれしがるにきまッております
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お礼なんか、どうだっていいんですよ。だれかに見つかるといけませんから、ちょっと細工さいくをしておきましょう。どうせばれるにはちがいありませんが、一分でも時をかせいだ方が有利ですからね」
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「お内儀を引っ叩きゃあ細工さいくは解る。勘、呼んだら来いよ。」
琉球赤木りゅうきゅうあかぎとかの細工さいくだそうです。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「珍らしい細工さいくだよ。この紙入には、もう一つ物を入れる場所があつたんだ。裏が疊み込みになつて居て、それを開くとそれ」
そのみせには、ガラス内側うちがわに、宝石ほうせきはいった指輪ゆびわや、金時計きんどけいや、ぎん細工さいくをしたえりかざりや、寒暖計かんだんけいや、いろいろなものがならべてありましたが、なかにも
角笛吹く子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それならばものたゝつち使つかふものかといふに、それにはあま細工さいくぎてゐるようにもおもはれるので、はたしてなに使つかはれたものかすこぶうたがはしいくらゐです。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
金で細工さいくをした妙な形の台である。これを蝋燭立と見たのは三四郎の臆断おくだんで、じつはなんだかわからない。この不可思議の蝋燭立のうしろに明らかな鏡がある。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たけの長いおどろしき黒髪が軒ばに手招きしている小間物店こまものみせは、そこのうす暗い奥に、とろけそうなたいまい、鼈甲べっこう、金銀青貝の細工さいくるいが、お花畑ほど群落していようとも、男にとっては
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若狭の三方郡細工さいく村は、もとエタ村として認められていた。
エタ源流考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
「空家に久吉がゐたといふから、話がわからなくなつたのさ。空家に代りを入れて、自分は外で細工さいくをする手のあることを忘れてゐたんだ」
そのあとは、卜斎も寝入り、細工さいく小屋の槌音つちおともやんでシーンと真夜中の静けさにかえったが、半助だけは、うすい蒲団ふとんをかぶって横になりながらも、まだ寝もやらず目をパチパチとさせていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「空家に久吉がいたというから、話がわからなくなったのさ。空家に代りを入れて、自分は外で細工さいくをする手のあることを忘れていたんだ」