すじ)” の例文
為朝ためともすじかれてゆみすこよわくなりましたが、ひじがのびたので、まえよりもかえってながることができるようになりました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
脇差の切先きっさきを調べて見ると肉には触れている、橋の上をよくよく見ると血のしたたりが小指でしたほどずつすじを引いてこぼれております。
部屋へ入ると、よくこういう街道すじに建っている小さな木造の料理屋では、誰でもぶつかるようないろんな古馴染ふるなじみが眼についた。
その席亭の主人あるじというのは、町内の鳶頭とびがしらで、時々目暗縞めくらじまの腹掛に赤いすじの入った印袢纏しるしばんてんを着て、突っかけ草履ぞうりか何かでよく表を歩いていた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
火先はさんらんと縞目しまめすじをえがいて、人穴城ひとあなじょうへそそぎ、三千の野武士のぶしの巣を、たちまち大こんらんにおとし入れてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、取出せばそのすじへ届けるつもりだった、本当です。しかし世間をっといわせたかった。そこで思いついたのが、赤見沢博士の研究だ。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
申上もうしあげたいのは山々やまやまでござんすが、ちとあつかましいすじだもんでげすから、ついその、あっしのくちからも、申上もうしあげにくかったようなわけでげして」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その男の手の甲に、はすかけに、傷痕きずあとらしい黒いすじのあったのが、いつまでも、いつまでも、私の目に残っていました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「へい、あるすじより頼まれまして、風呂敷に包んだ木箱を一つ、あずかっておりますが、何がはいっておるかは、この爺いはすこしも存じませんので」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
わたくし任務つとめというのはごく一とすじのもので、したがって格別かくべつてて吹聴ふいちょうするようなめずらしいはなしたねとてもありませぬが
露子つゆこはつばめに、そのふねあかすじはいったふねで、三ぼんたかいほばしらがあることから、自分じぶん記憶きおくのままを、いちいちかたかせたのであります。
赤い船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
卯ノ花の汗袴かざみを着て式台に這いつくばってとぼけているが、首筋に深く斬れこんだ太刀傷があり、手足も並々ならずすじ張っていて、素性を洗いだせば
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
江戸は年々歳々ねんねんさいさい御触出おふれだしあるがゆえに、通りすじ間筋あいすじ大方おおかた瓦葺かわらぶきとなったが、はしばしにはたたき屋根が多い。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わたしが手紙を書くのはこれがはじめてでなかなかほねれた。それはひじょうにいたましいことであったが、わたしたちはまだひとすじ希望きぼうを持っていた。
次に最後の「朝」、この朝の字をここに置きたるが気にくはず。元来この歌に朝といふ字がどれほど必要……図に乗つて余り書きし故すじ痛み出し、やめ。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
私の方からもねがいすじがある、兼て長官へ内々御話いたしたこともある通り、三田みた島原しまばらの屋敷地を拝借いたしたい、けは厚く御含おふくみを願うと云うは
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かもの流れは水音もなく、河原の小石を洗いながら、南に向かって流れていたが、取り忘れられたさらし布が、二すじ三筋河原に残って、白く月光を吸っていた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
両者がいずれも貿易の関心によって動いていた点には変りはないが、しかしポルトガル人の運動のすじがねとなっていたのは航海者ヘンリ王子の精神であった。
鎖国:日本の悲劇 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
探るべきすじあったればこそ探りに這入った隠密、斬れば主水之介も鬼になろうぞ。素直に帰さば主水之介も仏になろうぞ。どうじゃ。とくと分別して返答せい
「申しますよ、親分、この話は目黒で知らない者もなく、此家の旦那だって薄々は、呑込んで居るすじだ」
「テクニカラーでした。すばらしくうつくしいものでした。すじはありきたりの平凡へいぼんなものでしたが……」
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
およばずながら私がお道すじをご案内申しあげたいと存じまして、お迎えにまいりましたのでございます
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
かけける處に町内の自身番屋じしんばんやへ火附盜賊改役奧田主膳殿組下與力笠原粂之進は同心を引連ひきつれきたりて平兵衞を呼び其方そのはう店子たなこ煙草屋たばこや喜八事御用のすじあるより案内あんない致せとて平兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
鼻をやつままむ眼をやおさむとまたつくづくとうちまもりぬ。ふとその鼻頭はなさきをねらひて手をふれしにくうひねりて、うつくしき人はひなの如く顔のすじひとつゆるみもせざりき。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あかるい声でいきをあわせている先生のほおを、なみだすじが走った。みんなしんとしたなかで、早苗はつと立ち上った。ったマスノはひとり手すりによりかかって歌っていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「それじゃ、まあ、とにかく一番丁へ行ってみて、どこかあらたに開拓するとしよう。おいしい蒲焼かばやきでもたべさせる家があるといいんだが、どうも、仙台のうなぎにはすじがある。」
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
西を見れば、茶褐色にこがれた雑木山の向うに、濃い黛色たいしょくの低い山が横長く出没して居る。多摩川たまがわの西岸をふちどる所謂多摩の横山で、川は見えぬが流れのすじ分明ぶんみょうに指さゝれる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ここらあたりにもまた沢山たくさんの湯がわいておる。湯坪ゆつぼという村にはすじ湯、大岳おおたけ地獄、疥癬ひぜん湯、河原の湯、田野たのという村には星生ほっしょうの湯、中野の湯、かんの地獄、うけくち温泉というのがある。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
すじかいに照し出している茶色のリノリウム張りの床の上には、そうと察して見なければ解らない程のウッスリとした、細長い、女の右足の爪先だけの靴痕がしるされているのであった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
また十節—十二節は「汝は我を乳の如くそそ牛酪ぎゅうらくの如くに固め給いしにあらずや、汝は皮と肉とを我に着せ骨とすじとをもて我をみ、生命いのち恩恵めぐみとを我に授け我をかえりみてわがいきを守り給えり」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
飯台の上にすじを引いて、黒いこまをあっちに動かし、こっちに飛ばしている。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そこでこれは大変だ、念力には感光作用もあるらしいということになったのだそうである。実際はもっと紆余うよ曲折はあったのであるが、結局すじはそういうことらしい。これでは話にもならない。
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
これは海の中におのずから水の流れるすじがありますから、その筋をたよって舟をしおなりにちゃんとめまして、お客は将監しょうげん——つまり舟のかしらの方からの第一の——に向うを向いてしゃんと坐って
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
もっとも冬場ふゆばでも、まぐろの腹部の肉、俗に砂摺すなずりというところが脂身あぶらみであるゆえに、木目もくめのような皮の部分がみ切れないすじとなるから、この部分は細切りして、「ねぎま」というなべものにして
鮪を食う話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「どんなすじなんでしょう」という問いに主人は答えて
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
マギイ婆さんが顔のすじ一つ動かさずに云った。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「てっきりお手のすじですよ。」
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大切そうに二すじの林檎の皮を
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
すじかひにふとんしきたり宵の春
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
まぶた周囲まわりに細い淡紅色ときいろの絹糸を縫いつけたようなすじが入っている。眼をぱちつかせるたびに絹糸が急に寄って一本になる。と思うとまた丸くなる。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中国すじ、大坂、島原しまばらと、諸国の遊び場所を通って来たが、清吉はこんな馬鹿な女の多い土地はまだほかでは知らなかった。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若者わかものたちはすぐにこのみなとからてゆくように、もしかなければ、そのふねさえるなりそのすじうったるなり、するからといったのであります。
カラカラ鳴る海 (新字新仮名) / 小川未明(著)
どうもすじなわふた筋縄で行かぬ人物であり、しかもその犯人は相当インテリゲンチャであると思うのであります。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
うえはお大名だいみょうのお姫様ひめさまから、したはしした乞食こじきまで、十五から三十までのおんなのつくおんなかみは、ひとすじのこらずはいってるんだぜ。——どうだまつつぁん。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
私は探偵小説のすじを考えるために、方々ほうぼうをぶらつくことがあるが、東京を離れない場合は、大抵たいてい行先がきまっている。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わたくしはただ自分じぶんむように、一とすじ女子おんなとしてあたまえみちんだまでのことなのでございまして……。
そこで為朝ためとも死罪しざいゆるして、そのかわつよゆみけないように、ひじのすじいて伊豆いず大島おおしまながしました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
竜之助は木彫きぼりの像を置いたようにキチンと坐って、かおすじ一つ動かさず、色は例の通り蒼白あおじろいくらいで、一言ひとことものを言っては直ぐに唇を固く結んでしまいます。
我輩わがはいはこの一段に至りて、勝氏のわたくしめにははなはだ気の毒なる次第しだいなれども、いささ所望しょもうすじなきを得ず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ふと北の空に青白いすじが見えたが、だんだん大きくなってこちらのほうへ向かって来た。そのときわたしたちはきみょうながあがあいうささやき声のような音を聞いた。