ほこ)” の例文
よ、かしらなきむくろ金鎧きんがい一縮いつしゆくしてほこよこたへ、片手かたてげつゝうままたがり、砂煙すなけむりはらつてトツ/\とぢんかへる。陣中ぢんちうあにおどろかざらんや。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕は両大学がそもそほこを交ゆるに至つた最所からの径路と、紛糾の真相とを詳細にかたりたいと思ふ。僕等は何人も知る如く当年の弥次だ。
神将は手に三叉みつまたほこを持つてゐましたが、いきなりその戟の切先を杜子春の胸もとへ向けながら、眼をいからせて叱りつけるのを聞けば
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
罵声ばせいが子路に向って飛び、無数の石や棒が子路の身体からだに当った。敵のほこ尖端さきほおかすめた。えい(冠のひも)がれて、冠が落ちかかる。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
故に仏を奉ずる者の、三先生に応酬するがごとき、もとこれ弁じやすきの事たり。たんを張り目を怒らし、手をほこにし気をさかんにするを要せず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「さあ、星の下で俺と三百合まで勝負しろっ。三百合までほこを合わせてもなお勝負がつかなかったら、生命は助けておいてやる!」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほこ——まさかりに似た昔の武器であるが、当時ロシアの巡査の交番所では、これを傍らに立てかけて一種の標章としていたのである。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
皆黄いろな頭巾を被って、鎧を着、錦の直衣ひたたれを着けて、手に手に長いほこを持っていた。武士は壇の下へきて並んで立った。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
波をして荒れしめよ、風をして怒らしめよ、三千八百万の同胞をして三千八百万のほこてゝ吾人に向はしめよ。吾人は厳乎として我立場に立つべきのみ。
信仰個条なかるべからず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
羊歯しだの小自由国や、蘚苔せんたいの小王国を保護して、樅落葉松の純林、ほこそろへて隣々相立てるあり、これありて裾野の柔美式なる色相図しきさうづに、剛健なる鉄銹色てつしうしよくともし、無敵の冬をもして
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
最初はじめはさすがに熱もはげしく上りて、ベッドの上のうわ言にも手をほこにして敵艦をののしり分隊長と叫びては医員を驚かししが、もとより血気盛んなる若者の、傷もさまで重きにあらず
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
わずかにほこをもってその左足を傷つけただけで、遂にその姿を見失った。
本人は自分がえらくて成功した積りでいるが、実はわざわいも三年のことわざが十年に延びたに過ぎない。斯う考えて見ると、私達は直接ほこを取って戦わなかったにしても、日露戦争に深い関係を持っている。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
枝にほことる木々たかし
都喜姫 (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ほこを手に、東のかた
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
神将は手に三叉みつまたほこを持っていましたが、いきなりその戟の切先きっさきを杜子春のむなもとへ向けながら、眼をいからせて叱りつけるのを聞けば
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
数十りゅうの営旗は、風に伏す草の如く、たちまち、赤兎馬に蹴ちらされて、ほこは飛び、槍は折れ、鉄弓も鉄鎚も、まるで用をなさなかった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
全部が、兵車を並べた外側に出、ほこたてとを持った者が前列に、弓弩きゅうどを手にした者が後列にと配置されているのである。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
皆牛の頭のように角のある顔の恐ろしい、それで体の青い紺色の髪の毛の、頭にも手足にももじゃもじゃと生えた者で、それがそれぞれほこのような物を持っていた。
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
巡査おまわりがまだ遠くの方からほこでもってそれを指し示しながら、「おい、何か落っこちたぞ、拾いたまえ!」と注意したので、イワン・ヤーコウレヴィッチはまたもや鼻を拾いあげて
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
傾いたふなべりから、二にん半身を乗りいだして、うつむけに海をのぞくと思うと、くろがねかいなわらびの手、二条の柄がすっくと空、穂尖ほさきみじかに、一斉に三叉みつまたほこを構えた瞬間、畳およそ百余畳、海一面に鮮血からくれない
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを聞いて、王婆は手をほこにして罵った。
そして、射かける間に、各親船から小舟をおろし、ほこ、剣の精鋭を陸へ押しあげて、一気に沿岸の防禦を突破しようという気勢であった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大勢おおぜい神将しんしょう、あるいはほこり、あるいはけんひっさげ、小野おの小町こまちの屋根をまもっている。そこへ黄泉よみの使、蹌踉そうろうと空へ現れる。
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼はほこを取直すと、ふたたび乱軍の中に駈入かけいった。暗い中で敵味方も分らぬほどの乱闘のうちに、李陵の馬が流矢ながれやに当たったとみえてガックリ前にのめった。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
三山の冠を被り、淡黄袍たんこうほうを著けて、玉帯をした者が神座へ坐って、神案しんあんに拠りかかり、その従者であろう十人あまりの者が、手に手にほこを持って階下の左右に別れて立っていた。
申陽洞記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
傍らに例の*ほこを立てかけたまま、角型つのがたの煙草入れからタコだらけの拳の上へ嗅ぎ煙草を振り出しているところへ、どすんとつき当たった時、初めて少しばかり人心地がついたが
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
八万四千の眷属けんぞくて、蒼海そうかいを踏み、須弥山しゅみせんさしはさみ、気焔きえん万丈ばんじょう虚空を焼きて、星辰せいしんの光を奪い、白日闇はくじつあんの毒霧に乗じて、ほこふるい、おのを振い、一度ひとたび虚空に朝せんか、持国広目ありとというとも
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
武家は武門の一門を世職とするものだが、それが、政治の権をほこかざし、右文左武うぶんさぶの融和もつりあいもこのごろではあったものではない。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この勢いに気を呑まれて、私は元より当の鍛冶かじまで、しばらくはただ、竹馬をほこにしたまま、狂おしい沙門の振舞を、呆れてじっと見守って居りました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それでも、ほこを失ったものは車輻しゃふくってこれを持ち、軍吏ぐんり尺刀せきとうを手にして防戦した。谷は奥へ進むに従っていよいよせまくなる。胡卒こそつは諸所のがけの上から大石を投下しはじめた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
交番の傍らには一人の巡査が例のほこにもたれてたたずんでいたが、大声でわめきながら遠くからこちらへ走って来るのはいったいどこのどいつだろうと、どうやら好奇心を動かされたらしく
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
やがて道人は壇の上に坐ってかじを書いて焼いた。と、三四人の武士がどこからともなしにやって来た。皆きいろな頭巾ずきんかぶって、よろいを着、にしき直衣なおしを着けて、手に手に長いほこを持っていた。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
韓遂は、ほこをとるまもなかったので、左のひじをあげて、身を防いだ。馬超の剣は、その左手を腕のつけ根から斬り落し、なおも
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猪熊いのくまおじは、ほこをたばさみながら、隣にいる仲間をふり返った。蘇芳染すおうぞめ水干すいかんを着た相手は、太刀たちのつばを鳴らして、「ふふん」と言ったまま、答えない。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「それだ! わしも思いついていたのは。——典韋を酔いつぶして、彼のほこさえ奪っておけば、おまえにも彼を打殺すことができるだろう」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神将はかうわめくが早いか、三叉みつまたほこひらめかせて、一突きに杜子春を突き殺しました。さうして峨眉山もどよむ程、からからと高く笑ひながら、どこともなく消えてしまひました。
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ふなべりに並んだ呉の兵は、弓を引きしぼり、ほこを伸ばして、小舟を寄せつけまいと防ぎながら、その船脚はなお颯々と大江たいこうの水を切って走ってゆく。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
太刀たちをはくもの、矢を負うもの、おのを執るもの、ほこを持つもの、皆それぞれ、得物えものに身を固めて、脛布はばき藁沓わろうずの装いもかいがいしく、門の前に渡した石橋へ、むらむらと集まって、列を作る——と
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あの良い槍、良い剣、良いほこ、良いかぶと、良い戦袍せんぽう、良い馬、そしておびただしい車馬に積んできた食糧や宝は、すべて皆、汝たちに与えられる物だ。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神将 (憤然ふんぜんと)このほこらって往生おうじょうしろ! (使に飛びかかる)
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
赤毛赤髯あかひげの兵卒は、後ずさりに、出て行った。その手には、典韋のほこを、いつのまにか奪りあげて持っていた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神将はほこを高く挙げて、向うの山の空を招きました。
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
呂布のもたれているほこの柄が榻の下に見える。——魏続は手をのばして榻の下からその柄を強く引っ張った。居眠っていた呂布は、不意に支えをはずされたので
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奔馬や、帝の御車や、裸足はだしのままの公卿たちや、ほこをかかえた兵や将や、激流のような一陣の砂けむりが、うろたえた喚き声をつつんで、その前を通って行った。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
互いに顧眄こべんの心があるので、敵ながらすぐ弓やほこに物をいわせようとせず、二、三の問答を交わしているうちに、下邳かひのほうから高順こうじゅん侯成こうせいが助けにきてくれたので
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
火焔に染まった赤い大地を、こう呼ばわり呼ばわり、ほこを躍らせながら、駈け廻っている、七、八人の兵があった。常陸方は誰あってそれを敵の忍びと疑っていなかった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
関羽、張飛、その余の面々も、弓をたばさみ、ほこを擁し、玄徳と共に、扈従こじゅうの列に加わった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その大将に二名の壮将を置き、ひとりは陳国ちんこくの人、典韋てんいと申し、よくくろがねの重さ八十斤もあるほこを使って、勇猛四隣を震わせていましたが、この人はすでに戦歿して今はおりません。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御林の旗幡きはんは整々と並び、氷雪をあざむくほこや鎗は凛々りんりん篝火かがりびに映え、威厳いげん森々しんしんたるものがあるので、さすがの蛮王も身をすくめてただらんたる眼ばかりキョロキョロうごかしていた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)