凛々りり)” の例文
智恵と慈悲と清浄と、そして勇気の権化ごんげのような、美しく凛々りりしい小枝姫は、今宵も凛々しく美しくつ無邪気に取り澄ましている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうおぬいさんが凛々りりしく響くような声でいって、書物をぼんやりしかけた渡瀬の前にひろげたので渡瀬はようやく我に返った。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
如何いかなる風の誘いてか、かく凛々りりしき壮夫ますらおを吹き寄せたると、折々はつるせたる老人の肩をすかして、恥かしのまつげの下よりランスロットを見る。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宇女であった……彼女は黒髪を束ねて背に垂れ、白装束の腰紐こしひもをかたく締上げた凛々りりしい姿で、薙刀を右手に抱込み、敷居際まで進んでひざをついた。
三十二刻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
暮れかけている塹壕の上へ、凛々りりしい髪止めをし、たすきをかけた婦人たちの一群が、数箇のバケツをさげて降りて来た。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高蔵人は身拵みごしらえ凛々りりしく、両刀を挟んだ上に、六尺柄皆朱かいしゅの手槍をひっさげて、相生総左衛門の屋敷に忍び込みました。
染之助がふんしている三浦之介とか勝頼とか、重次郎とか、維盛これもりとか、ああした今の世には生きていない、美しい凛々りりしい人達ではなかったかと、そう思うと
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
すると反対の側から、年の頃は六十路むそじを二つ三つ越えたと思われる半白の口髭くちひげ頤髯あごひげ凛々りりしい将軍が、六尺豊かの長身を、静かにマイクロフォンに近づけた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もうすもかしこけれど、お婿様むこさまは百だい一人ひとりわれる、すぐれた御器量ごきりょう御子みこまたきさきは、しとやかなお姿すがたうち凛々りりしい御気性ごきしょうをつつまれた絶世ぜっせい佳人かじん
大兵肥満の晋子其角しんしきかくが、つむぎの角通しの懐を鷹揚おうやうにふくらませて、憲法小紋の肩をそば立てた、ものごしの凛々りりしい去来と一しよに、ぢつと師匠の容態をうかがつてゐる。
枯野抄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
見れば濃いまゆを青々とり眼の大きい口尻の凛々りりしい面長おもながの美男子が、片手には大きな螺旋ねじねじ煙管きせるを持ち荒い三升格子みますごうし褞袍どてらを着て屋根船の中に胡坐あぐらをかいていると
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
凛々りりしき声にさきを払わして手套てぶくろを脱ぎつつ入り来る武男のあとより、外套がいとう吾妻あずまコートをおんなに渡しつつ、浪子は夫に引き沿うてしとやかに座につき、手をつかえつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
双方に安心させるのが孝行だよ……まことにあなた何時いつまでも子供のようでございます……あんない養子はございませんよ、うちへいらっしゃってもあの凛々りりしいお方で
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
だんだん交際つきあってみるにしたがい、なかなか硬骨こうこつで、一たび言い出すと決してあとへ退かぬ人もあるし、また外部から見るといかにも凛々りりしく、ころもかんに至り袖腕そでわんに至り
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
かれは眼の涼しい、口元の引き締った、見るからやさしげな、しかも凛々りりしい美少年であった。
半七捕物帳:18 槍突き (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「いやだよ、もう金さん、そんなていねいなことばつかわれると、私は気がつまるから、やっぱり書生言葉を遣ってくださいよ。ほんとに凛々りりしくって、私は書生言葉は大好きさ」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女は、美しく、たわやかで、その中に限りない凛々りりしさをほの見せている雪之丞の舞台すがたに、食い入るような瞳を投げつづけながら、ののしり、もがき、もだえているのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
途端に其処に通掛った近衛の将校の方があったのです——凛々りりしい顔をなすった戦争いくさに強そうな方でしたがねえ、其将校の何処が気に入らなかったのか、其可怖こわい眼をした女の方が
昇降場 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
やせて背は高く、面長おもながで、容貌ようぼう凛々りりしいことはドイツ人に似、起居振舞たちいふるまいはゆっくりではあるが、またきわめて文雅な感じのある年老いた人がそこに彼らを待ち受けていたという。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
平馬、今年十五歳、元服して大人になった姿はじつに凛々りりしい武者ぶりであった。
平馬と鶯 (新字新仮名) / 林不忘(著)
五歳! なんという凛々りりしく雄々しい風貌であったろう! 歴史画に見る古羅馬貴族のようにひだの多い折目の付いた寛闊な麻の外衣トーガを着け、肩には精巧なる金の透彫りの外衣吊りを懸けていた。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
今にしていっそう男性美を増したごとく凛々りりしい美丈夫ぶりでしたから、慈悲、侠気きょうき、名声広大なむっつり右門ならば、思いきってそのふところにすがりついてみようという決心がついたものか
あゝヘクトール、見る處、姿は凛々りりし、勇は缺く!
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
そして凛々りりしい表情と態度とが
果然平石が落下して、穴の開いたのはよいとして、それと一緒にいとも凛々りりしい立派な人間が落ちて来ようとは思い設けないことであった。
凛々りりしい青年なので、何かのこれは間違いにちがいないと、先にどなった少年の悪戯わるさをむしろ憎んだほどであった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その一人は城下に名高い、松木蘭袋まつきらんたいまぎれなかった。もう一人の僧形は、見る影もなく病みほうけていたが、それでも凛々りりしい物ごしに、どこか武士らしい容子ようすがあった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
凛々りりしい眉、涼しそうなる眼、形のいい鼻、濡れたような赤い唇、豊な頬、魅力のある耳殻——そういうものをそっくりそのまま備えた別の男があっていいものだろうか。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
しかして書中に現れた悪魔の態度の実に凛々りりしく、彼の野心の実に偉大なる、彼の度量の広闊こうかつなる、読む者をして知らず知らず神よりも悪魔を尊敬する念を起こさしむる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
幕の後から覗く百姓の群もあれば、さくの上に登って見ている子供も有ました。手をたたく音がしずまって一時しんとしたかと思うと、やがて凛々りりしい能く徹る声で、誰やらが演説を始める。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
指導役しどうやくのおじいさんかしら……。』そうおもって不図ふとりかえてると、そこには六十前後ぜんごゆる、すぐれて品位ひんのよい、凛々りりしいおかおの、白衣びゃくい老人ろうじんくろっぽいくつ穿いてたたずんでいました。
藤色ふじいろ縮緬ちりめんのおこそ頭巾ずきんとともに信玄袋をわきへ押しやり、浪子の枕べ近く立ち寄るは島田の十七八、紺地斜綾はすあや吾妻あずまコートにすらりとした姿を包んで、三日月眉みかづきまゆにおやかに、凛々りりしき黒目がちの
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
晋太郎はおどろくほどおとなびて凛々りりしくみえた。
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
凛々りりしい松代の姿である。裾をキリキリと取り上げている。両袖を肩で結んでいる。深紅の蹴出けだしからはぎが洩れ、脛には血汐が着いている。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夫人ですら、凛々りりしく、奥仕えの腰元こしもとたちを指図したり、用人達へ心得をさとしたり、自身は、良人の居間を片づけたりして、心の処理を保っているのに——。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大尉の念ずる顔とはいうまでもなく、川上機関大尉のあの凛々りりしい顔であった。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
総髪の大髻おおたぶさに髪を結い、黒の紋附きに白縞袴を穿いた、わたしの見知らないお侍様が凛々りりしい重みのある澄んだ声で、そう捕吏たちに云いました。
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あの、温厚おんこうにして深略しんりゃくのある小幡民部こばたみんぶ、あのやさしくて凛々りりしい咲耶子さくやこ、あの絶倫ぜつりん槍術家そうじゅつかと弓の名人である、蔦之助つたのすけ巽小文治たつみこぶんじにもずいぶんながく会わなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本所割下水の露路の奥の、浪宅の裏縁に二十一、二の、美しいが凛々りりしい武家娘が、鞣した猫の皮を陽に干していた。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
凛々りりしく見拵みごしらえした武士であった。——夕刻、坂下の花屋の老爺おやじが挙動を怪しんで、寺の裏山へ見送ったという——あの若い武士がこの男であったのではあるまいか。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小次郎の凛々りりしいおもかげと、それに関する妄想とが、払っても払っても脳裡に去来ゆききし、彼女の煩悩ぼんのうをそそるからであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
源次郎はこっくりして、正直にすぐ松の根元へ行き、五月人形のように凛々りりしく立った。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
痩せてはいるが身長せいは高く、肩が怒って凛々りりしいのは、武道に深いたしなみを持っている証拠ということができる。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
別辞わかれを交わしていた好青年である。若衆小袖を旅扮装たびいでたち凛々りりしくくくり、前髪の元結もとゆいも匂やかに、大太刀を背に負い、身のこしらえ、まなざしや構え、なにしろ花やかに見うけられる。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庵室の襖を向こうから開けて静かに姿を現わしたのは旅のよそお凛々りりしくした木村常陸介その人であった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たくましかった。誰が見ても、憎んで見てさえも、それは凛々りりしい男振りであった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
艶々した前髪立ち、年は十二というけれど一見すれば十八、九、鼻高く眼涼しく、美少年であって凛々りりしい眼の配り方足の運び方、武道の精髄に食い入ったものである。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
片肌かたはだをおとした凛々りりしいふたりの射手いては、もう支度したくのできている場所ばしょに身がまえをつくって、弓懸ゆがけをしめ、気息きそくをただし、左手にあたえられた強弓ごうきゅうを取って、合図、いまやと待ちうけている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この若侍は凛々りりし過ぎるよ。接吻くちづけをしても駄目かもしれない。でもわたしはこういう男も好きだよ。妾はこの男を手に入れてみせる。……でもこの男は拒絶ことわるだろうよ。あの北条左内様のように。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
網代笠あじろがさにかくされて、そうのおもざしはうかがいようもないが、まるぐけのひもをむすんだ口もとの色白く、どこか凛々りりしいその行脚僧あんぎゃそうは、ころものそででをよけながら、ジイッとやいばをみつめていたが
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)