あだ)” の例文
知らず識らずはまり込んだ女が、あだし人の手に身受けされようとする噂を聞き込んで、矢も楯もたまらずに、彼は南条の勧誘に従いました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
またその天の尾羽張の神は、天の安の河の水をさかさまきあげて、道を塞き居れば、あだし神はえ行かじ。かれことに天の迦久かくの神を遣はして問ふべし
昼は肴屋さかなや店頭みせさき魚骨ぎょこつを求めて、なさけ知らぬ人のしもと追立おいたてられ。或時は村童さとのこらかれて、大路おおじあだし犬と争ひ、或時は撲犬師いぬころしに襲はれて、藪蔭やぶかげに危き命をひらふ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
辿る/\も闇き世を出づべき道に入らんとて、そらへと伸ぶる呉竹の直なる願を独り立て、あだし望みは思ひ絶つ其麻衣ひきまとひ、供ふる華に置く露の露散るあした
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
昔の村の境に、坂のあたりに土石を運びおくといふのは、そこを一の関とするので、恐らくあだし人と他し神とを防いで、越え難からしめようとするのであつたらう。
石を積む (新字旧仮名) / 別所梅之助(著)
さるからに口説くぜつの際も常に予を戒めて、ここな性悪者め、あだ女子おなごに見替えてむごくも我を棄つることあらば呪殺のろいころしてくれんずと、凄まじかりし顔色は今もなおまなこに在り。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すれば、おまへがロミオへの封印代ふいんがはりにしたこのを、あだ證書しょうしょ封印ふういん使つかはうより、またいつはりのこのこゝろみさをそむいてあだをとこけうより、この懷劒くわいけんこゝろ突殺つきころしてのけう。
すめらぎの道ただ一つこをおきてあだ小徑こみちによらめやも人 (平田篤胤)
愛国歌小観 (旧字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
三一八海にちかひ山にちかひし事をはやくわすれ給ふとも、三一九さるべきえにしのあれば又もあひ見奉るものを、三二〇あだし人のいふことをまことしくおぼして、あながちに遠ざけ給はんには、うらむくいなん。
あだし人の事ながら、誠なき男見れば取りも殺したく思はるゝよ
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
とよ足穗たりほも、あだひとり干しにけむ、いつのに。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
あだし人責めも來なくに空しかる影のたはわざ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
あだしごとはおもふまじるにてもきみさまのおこゝろづかはしとあふればはしなくもをとこはじつと直視ながめゐたりハツと俯向うつむはぢ紅葉もみぢのかげるはしきあき山里やまざとたけがりしてあそびしむかしは蝶々髷てふ/\まげゆめとたちて姿すがたやさしき都風みやこふうたれにおとらんいろなるかはうれひを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「およそあだし國の人は、こうむ時になりては、もとつ國の形になりて生むなり。かれ、妾も今もとの身になりて産まむとす。願はくは妾をな見たまひそ」
仮令たといあま飛ぶ雷が今おちればとて二人が中は引裂ひきさかれじと契りし者を、よしや子爵の威権烈しくあだむこがね定むるとも、我の命は彼にまかせお辰が命は珠運もらいたれば
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
... なさけあだしためならず、皆これ和主にまいらせんためなり」ト、いふに黒衣も打ちわらいて、「そはいとやすき事なり。幸ひこれに弓あれば、これにて共にき往かん。まづ待ち給へせん用あり」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
はさりながら、あだし人の心、我が誠もてはかるべきに非ず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
とよ足穂たりほも、あだびとり干しにけむ、いつのに。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
おもふまじ/\あだこゝろなく兄様あにさましたしまんによもにくみはしたまはじよそながらもやさしきおことばきくばかりがせめてもぞといさぎよく断念あきらめながらかずがほなみだほゝにつたひて思案しあんのよりいとあとにどりぬさりとてはのおやさしきがうらみぞかし一向ひたすらにつらからばさてもやまんを
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かれその遣さえたる大碓の命、召し上げずて、すなはちおのれみづからその二孃子に婚ひて、更にあだをみなぎて、その孃子と詐り名づけて貢上たてまつりき。
それはあだし婿がね取らせんとて父上の皆されし事。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)