黒白あいろ)” の例文
すぐ丘の下、滑川なめりがわのむこうには、たそがれの黒白あいろも分かず、たくさんな兵が、ひしめき合い、呶号のうしおを逆巻いているのだった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実は、さきに小春を連れて、この旅館へ帰った頃に、廊下を歩行あるれたこの女が、手を取ったほど早や暗くて、座敷もかろうじて黒白あいろの分るくらいであった。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はや宵に入って、物の黒白あいろもわかりません。よも合図にたがいはなかろうと思いますが、万一があっては大変です。それがしどもがまずその辺の陸地を
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
凝視みつめる瞳で、やっと少しずつ、四辺あたり黒白あいろが分った時、私はフト思いがけない珍らしいものをた。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
六波羅殿舎でんしゃの大屋根は墨をいて、内苑のかがりはチロチロ衰えかけ、有明けの黒白あいろもなお、さだかでなかった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帯、袖、ふらりとさがった裾を、幾重、何枚にも越した奥に、蝋燭と思う、小さな火が、鉛の沼のような畳に見える。それで、かすかに、朦朧もうろうと、ものの黒白あいろがわかるのです。これに不思議はありません。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかも暮れ迷う夕の黒白あいろがいつまで長い。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)