“鯉魚(りぎよ)” の例文
其の絵の妙(たへ)なるを感(め)でて乞要(こひもと)むるもの一二前後(ついで)をあらそへば、只花鳥山水は乞(こ)ふにまかせてあたへ、鯉魚(りぎよ)の絵は一三あながちに惜しみて、人毎(ごと)に戯(たわぶ)れていふ。
或るときは一〇絵に心を凝(こら)して眠(ねぶり)をさそへば、ゆめの裏(うち)に江に入りて、一一大小(さばかり)の魚とともに遊ぶ。覚(さ)むれば即(やが)て見つるままを画きて壁(かべ)に貼(お)し、みづから呼びて夢応(むおう)の鯉魚(りぎよ)と名付けけり。
只餌(ゑ)の香(かんば)しきに昧(くら)まされて、釣(つり)の糸にかかり身を亡(うしな)ふ事なかれといひて、去りて見えずなりぬ。不思議のあまりにおのが身をかへり見れば、いつのまに鱗(うろこ)金光(きんくわう)を備へてひとつの鯉魚(りぎよ)と化(け)しぬ。